1.1 感染症
本剤投与により、敗血症、肺炎等の重篤な感染症があらわれ、致命的な経過をたどることがある。本剤はIL-6の作用を抑制し治療効果を得る薬剤である。IL-6は急性期反応(発熱、CRP増加等)を誘引するサイトカインであり、本剤投与によりこれらの反応は抑制されるため、感染症に伴う症状が抑制される。そのため感染症の発見が遅れ、重篤化することがあるので、本剤投与中は患者の状態を十分に観察し問診を行うこと。症状が軽微であり急性期反応が認められないときでも、白血球数、好中球数の変動に注意し、感染症が疑われる場合には、胸部X線、CT等の検査を実施し、適切な処置を行うこと。[
2.1、
8.4、
8.6、
9.1.1、
11.1.2参照]
1.2 治療開始に際しては、重篤な感染症等の副作用があらわれることがあること及び本剤が疾病を完治させる薬剤でないことも含めて患者に十分説明し、理解したことを確認した上で、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ本剤を投与すること。
1.3 本剤の治療を行う前に、各適応疾患の既存治療薬の使用を十分勘案すること。[5.参照]
1.4 本剤についての十分な知識と適応疾患の治療の知識・経験をもつ医師が使用すること。
過去の治療において、少なくとも1剤の抗リウマチ薬による適切な治療を行っても、効果不十分な場合に投与すること。[
1.3参照]
通常、成人には、トシリズマブ(遺伝子組換え)[トシリズマブ後続1]として1回162mgを2週間隔で皮下注射する。なお、効果不十分な場合には、1週間まで投与間隔を短縮できる。
7.1 血清中トシリズマブ濃度が維持されない状態で投与を継続すると、抗トシリズマブ抗体が発現する可能性が高くなるため、用法・用量を遵守すること。
7.2 本剤と他の抗リウマチ生物製剤の併用について安全性及び有効性は確立していないので併用を避けること。
7.3 関節リウマチ患者に対する本剤による治療反応は、通常投与開始から12週までには得られる。12週までに治療反応が得られない場合は、現在の治療計画の継続を慎重に再考すること。
7.4 本剤の2週間隔投与の有効性は点滴静注製剤と比較し低い可能性があることから、本剤の2週間隔投与で十分な効果が認められない場合には、1週間まで投与間隔を短縮又は点滴静注製剤等への切り替えを考慮すること。[
17.1.1参照]
8.1 本剤投与中はアナフィラキシーショック、アナフィラキシーに対する適切な薬物治療(アドレナリン、副腎皮質ステロイド薬、抗ヒスタミン薬等)や緊急処置を直ちに実施できるようにしておくこと。また、投与終了後も症状のないことを確認すること。[
11.1.1参照]
8.2 本剤投与により、投与時反応(発熱、悪寒、嘔気、嘔吐、頭痛、発疹等)が発現する可能性があるため、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合は、適切な処置を行うこと。
8.3 本剤投与後、注射部位反応(紅斑、
そう痒感、血腫、腫脹、出血、疼痛等)が発現することが報告されていることから、投与にあたっては、注射部位反応の発現に注意し、必要に応じて適切な処置を行うこと。[
14.2.1参照]
8.4 感染症を合併している患者に本剤を投与することにより、感染症が重篤化するおそれがあるため、下記の点に留意すること。[
1.1、
2.1、
8.6、
9.1.1、
11.1.2参照]
8.4.1 投与開始に際しては、肺炎等の感染症の有無を確認すること。なお、関節リウマチの臨床症状(発熱、倦怠感、リンパ節腫脹等)は感染症の症状と類似しているため、鑑別を十分に行うこと。
8.5 抗リウマチ生物製剤によるB型肝炎ウイルスの再活性化が報告されているので、本剤投与に先立って、B型肝炎ウイルス感染の有無を確認すること。[
9.1.2参照]
8.6 本剤投与により、急性期反応(発熱、CRP増加等)、感染症状が抑制され、感染症発見が遅れる可能性があるため、急性期反応が認められないときでも、白血球数、好中球数を定期的に測定し、これらの変動及び喘鳴、咳嗽、咽頭痛等の症状から感染症が疑われる場合には、胸部X線、CT等の検査を実施し適切な処置を行うこと。また、呼吸器感染のみならず皮膚感染や尿路感染等の自他覚症状についても注意し、異常が見られる場合には、速やかに担当医師に相談するよう、患者を指導すること。[
1.1、
2.1、
8.4、
9.1.1、
11.1.2参照]
8.7 本剤投与に先立って結核に関する十分な問診(結核の既往歴、結核患者との濃厚接触歴等)及び胸部X線検査に加え、インターフェロン-γ遊離試験又はツベルクリン反応検査を行い、適宜胸部CT検査等を行うことにより、結核感染の有無を確認すること。
本剤投与中は、胸部X線検査等の適切な検査を定期的に行うなど結核症の発現には十分に注意し、患者に対し、結核を疑う症状が発現した場合(持続する咳、発熱等)には速やかに担当医師に連絡するよう説明すること。なお、結核の活動性が確認された場合は本剤を投与せず、結核の治療を優先すること。[
2.2、
9.1.3、
11.1.2参照]
8.8 本剤投与中は、生ワクチン接種により感染するおそれがあるので、生ワクチン接種は行わないこと。
8.9 臨床試験において胸膜炎(感染症が特定できなかったものを含む)が報告されている。治療期間中に胸膜炎(所見:胸水貯留、胸部痛、呼吸困難等)が認められた場合には、その病因を十分に鑑別し、感染症でない場合も考慮して適切な処置を行うこと。
8.10 総コレステロール値、トリグリセリド値、LDLコレステロール値の増加等の脂質検査値異常があらわれることがあるので、投与開始3ヵ月後を目安に、以後は必要に応じて脂質検査を実施し、臨床上必要と認められた場合には、高脂血症治療薬の投与等の適切な処置を考慮すること。
8.11 臨床試験において心障害が認められていることから、患者の状態を十分に観察し、必要に応じて心電図検査、血液検査、胸部エコー等を実施すること。[
9.1.8、
11.1.6参照]
8.12 他の抗リウマチ生物製剤から本剤に切り替える際には、感染症の徴候について患者の状態を十分に観察すること。
8.13 本剤の投与開始にあたっては、医療施設において、必ず医師によるか、医師の直接の監督のもとで投与を行うこと。自己投与の適用については、医師がその妥当性を慎重に検討し、十分な教育訓練を実施した後、本剤投与による危険性と対処法について患者が理解し、患者自ら確実に投与できることを確認した上で、医師の管理指導の下で実施すること。
自己投与の適用後、感染症等の本剤による副作用が疑われる場合や自己投与の継続が困難な状況となる可能性がある場合には、直ちに自己投与を中止させ、医師の管理下で慎重に観察するなど適切な処置を行うこと。また、本剤投与後に副作用の発現が疑われる場合は、医療機関へ連絡するよう患者に指導を行うこと。使用済みの注射器を再使用しないように患者に注意を促し、すべての器具の安全な廃棄方法に関する指導の徹底を行うと同時に、使用済みの注射器を廃棄する容器を提供すること。
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 感染症(重篤な感染症を除く)を合併している患者又は感染症が疑われる患者
9.1.2 B型肝炎ウイルスキャリアの患者又は既往感染者(HBs抗原陰性、かつHBc抗体又はHBs抗体陽性)
最新のB型肝炎治療ガイドラインを参考に肝機能検査値や肝炎ウイルスマーカーのモニタリングを行うなど、B型肝炎ウイルスの再活性化の徴候や症状の発現に注意すること。抗リウマチ生物製剤を投与されたB型肝炎ウイルスキャリアの患者又は既往感染者において、B型肝炎ウイルスの再活性化が報告されている。[
8.5参照]
9.1.3 結核の既感染者(特に結核の既往歴のある患者及び胸部X線上結核治癒所見のある患者)又は結核感染が疑われる患者
(2)結核の既往歴を有する場合及び結核感染が疑われる場合には、結核の診療経験がある医師に相談すること。以下のいずれかの患者には、原則として本剤の投与開始前に適切に抗結核薬を投与すること。[
2.2、
8.7、
11.1.2参照]
・胸部画像検査で陳旧性結核に合致するか推定される陰影を有する患者
・結核の治療歴(肺外結核を含む)を有する患者
・インターフェロン-γ遊離試験やツベルクリン反応検査等の検査により、既感染が強く疑われる患者
・結核患者との濃厚接触歴を有する患者
9.1.4 易感染性の状態にある患者
投与を避けることが望ましい。なお、リンパ球数減少が遷延化した場合(目安として500/μL)は、投与を開始しないこと。日和見感染を含む感染症を誘発するおそれがある。
9.1.5 間質性肺炎の既往歴のある患者
定期的に問診を行うなど、注意すること。間質性肺炎が増悪又は再発することがある。[
11.1.3参照]
9.1.7 白血球減少、好中球減少、血小板減少のある患者
白血球減少、好中球減少、血小板減少が更に悪化するおそれがある。[
11.1.5参照]
9.1.8 心疾患を合併している患者
定期的に心電図検査を行いその変化に注意すること。臨床試験において心障害が認められている。[
8.11、
11.1.6参照]
9.3 肝機能障害患者
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。カニクイザルにおいて本薬は胎盤関門を通過することが報告されている。
9.6 授乳婦
治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。本薬のヒト乳汁への移行は不明である。
9.7 小児等
9.8 高齢者
患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること。一般に生理機能が低下している。
11.1 重大な副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.1.1 アナフィラキシーショック(頻度不明)、アナフィラキシー(0.3%)
血圧低下、呼吸困難、意識消失、めまい、嘔気、嘔吐、
そう痒感、潮紅等があらわれることがあるので、異常が認められた場合には直ちに投与を中止し、アドレナリン、副腎皮質ステロイド薬、抗ヒスタミン薬を投与するなど適切な処置を行うとともに症状が回復するまで患者の状態を十分に観察すること。[
8.1参照]
11.1.2 感染症
肺炎(3.6%)、帯状疱疹(2.8%)、感染性胃腸炎(2.3%)、蜂巣炎(2.1%)、感染性関節炎(0.2%)、敗血症(0.3%)、非結核性抗酸菌症(0.3%)、結核(頻度不明)、ニューモシスチス肺炎(頻度不明)等の日和見感染を含む重篤な感染症があらわれ、致命的な経過をたどることがある。[
1.1、
2.1、
2.2、
8.4、
8.6、
8.7、
9.1.1、
9.1.3参照]
11.1.3 間質性肺炎(頻度不明)
発熱、咳嗽、呼吸困難等の呼吸器症状に十分に注意し、異常が認められた場合には、速やかに胸部X線、CT及び血液ガス検査等を実施し、本剤の投与を中止するとともにニューモシスチス肺炎との鑑別診断(β-D-グルカンの測定等)を考慮に入れ適切な処置を行うこと。[
9.1.5参照]
11.1.4 腸管穿孔(0.2%)
本剤投与により、憩室炎等の急性腹症の症状(腹痛、発熱等)が抑制され、発見が遅れて穿孔に至る可能性があるため、異常が認められた場合には、腹部X線、CT等の検査を実施するなど十分に観察し、適切な処置を行うこと。[
9.1.6参照]
11.1.5 無顆粒球症(頻度不明)
、白血球減少(7.3%)
、好中球減少(6.4%)
、血小板減少(1.8%)[
9.1.7参照]
11.1.7 肝機能障害(頻度不明)
11.2 その他の副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
| | 1%以上 | 1%未満 | 頻度不明 |
| 抵抗機構 | ヘルペスウイルス感染、インフルエンザ | 口腔カンジダ症、耳下腺炎 | 創傷感染 |
| 呼吸器 | 上気道感染〔鼻咽頭炎、上気道炎等〕(41.5%)、副鼻腔炎、気管支炎、咽喉頭疼痛、咳嗽、鼻炎 | 喘息、胸膜炎、鼻漏 | 咽頭不快感、喀血、咽頭紅斑、鼻出血、気管支拡張症、鼻閉 |
| 代謝 | コレステロール増加(12.7%)、LDL増加、トリグリセリド増加、高脂血症、HDL増加、高コレステロール血症 | LDH上昇、CK上昇、血中尿酸増加、糖尿病増悪、血清フェリチン減少、血中リン減少 | 高トリグリセリド血症、総蛋白減少、血中カリウム減少、血糖増加、血中リン増加、血中カルシウム減少 |
| 肝臓 | ALT上昇、γ-GTP上昇、AST上昇、肝機能異常、ビリルビン増加、Al-P上昇 | 脂肪肝、胆石症 | |
| 循環器 | 高血圧、血圧上昇 | 上室性期外収縮、心室性期外収縮、ST部分下降、ST部分上昇、血圧低下、動悸 | T波逆転、T波振幅減少、T波振幅増加 |
| 血液・凝固 | 貧血、好酸球数増加、フィブリノゲン減少、リンパ球数減少 | 好中球数増加、白血球数増加、リンパ節炎 | フィブリン分解産物〔FDP、Dダイマー〕増加、ヘモグロビン減少、リンパ節腫脹、ヘマトクリット減少、赤血球数減少、TAT増加 |
| 消化器 | 胃腸炎、口内炎、下痢、腹痛、便秘、口唇炎、嘔吐、逆流性食道炎、胃・腸ポリープ | 痔核、腹部不快感、悪心、腹部膨満、胃潰瘍、消化不良、食欲不振、舌炎 | 急性膵炎、口渇 |
| 消化器 | 歯周病、齲歯 | | 歯痛 |
| 精神神経 | 頭痛、浮動性めまい、不眠症 | 感覚減退、末梢性ニューロパシー | |
| 耳 | 中耳炎、眩暈 | 外耳炎、耳鳴、突発難聴 | 耳不快感 |
| 眼 | 結膜炎 | 結膜出血、眼乾燥、麦粒腫、霰粒腫、眼瞼炎、硝子体浮遊物、網膜出血 | 白内障 |
| 皮膚 | 発疹〔湿疹、痒疹、丘疹等〕、そう痒症、爪感染、皮膚感染、蕁麻疹、紅斑、白癬、角化症、脱毛症 | 皮下出血、皮膚乾燥、嵌入爪、水疱、皮膚潰瘍 | 皮膚嚢腫、ざ瘡 |
| 筋・骨格 | 背部痛 | 関節痛、筋痛〔筋痛、肩こり〕、骨粗鬆症、頚部痛、骨密度減少 | 四肢痛、若年性関節炎増悪 |
| 泌尿器 | 膀胱炎、尿中赤血球陽性、尿路感染 | 尿蛋白、腎盂腎炎、尿糖、頻尿 | BUN増加、腎結石、NAG増加、尿中白血球陽性 |
| 生殖器 | 腟感染 | 性器出血 | 子宮頚管ポリープ |
| その他 | 注射部位反応〔紅斑、そう痒感、腫脹、出血、血腫、疼痛等〕、体重増加、発熱、アレルギー性鼻炎、膿瘍、浮腫 | 季節性アレルギー、胸痛、倦怠感、発汗障害、気分不良、胸部不快感、ほてり、悪寒 | 免疫グロブリンG減少、血栓性静脈炎、リウマチ因子陽性、DNA抗体陽性、抗核抗体陽性、潮紅、CRP増加 |
14.1 薬剤投与前の注意
14.1.1 トシリズマブBS皮下注162mgオートインジェクター「CT」の使用にあたっては、必ず添付の使用説明書を読むこと。
14.1.2 室温に戻しておくこと。
14.1.3 投与直前まで本剤の注射針のキャップを外さないこと。キャップを外したら直ちに投与すること。
14.2 薬剤投与時の注意
14.2.1 注射部位は、腹部、大腿部又は上腕部を選ぶこと。注射部位反応が報告されているので、同一箇所へ繰り返し注射することは避け、新たな注射部位は前回の注射部位から少なくとも3cm離すこと。[
8.3参照]
14.2.2 皮膚が敏感な部位、皮膚に異常のある部位(傷、発疹、発赤、硬結等)には注射しないこと。
14.2.3 他の薬剤と混合しないこと。
14.2.4 本剤は、1回で全量を使用する製剤であり、再使用しないこと。
14.2.5 注射器を分解しないこと。
14.3 薬剤交付時の注意
14.3.1 患者が家庭で保存する場合は、本剤は外箱に入れた状態で、凍結を避け、冷蔵庫内で保存すること。やむを得ず室温(30℃以下)で保存する場合は、14日以内に使用すること。14日以内に使用しない場合は、再度冷蔵保存(2〜8℃)することも可能だが、室温での保存は累積14日を超えないこと。
15.1 臨床使用に基づく情報
15.1.1 本剤投与により抗トシリズマブ抗体が発現したとの報告がある(皮下注製剤の関節リウマチを対象とした国内臨床試験(皮下投与群):205例中37例(18.0%)、点滴静注製剤の国内臨床試験・疾患別、関節リウマチ:601例中18例(3.0%)、多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎
注):19例中1例(5.3%)、全身型若年性特発性関節炎
注):128例中11例(8.6%)、キャッスルマン病
注):35例中1例(2.9%))。
注)本剤の効能又は効果は既存治療で効果不十分な関節リウマチである。
15.1.2 本邦において、本剤と抗リウマチ薬(DMARD)との併用療法における有効性及び安全性は確立していない。海外の関節リウマチを対象とした点滴静注製剤の臨床試験では、トランスアミナーゼ値上昇の発現頻度が単剤療法時に比べてDMARD併用療法時で高かった。基準値の3倍を超えるALTあるいはAST上昇の発現頻度は、DMARD併用療法:8mg/kg+DMARD群103/1582例(6.5%)、プラセボ+DMARD群18/1170例(1.5%)、単剤療法:8mg/kg群6/288例(2.1%)、MTX単剤群14/284例(4.9%)で、これらの異常は一過性で肝炎や肝不全に伴うものではなかった。[
9.3、
10.2、
11.1.7参照]
15.1.3 本剤の関節リウマチを対象とした臨床試験は、国内外でそれぞれ2年までの期間で実施されている。この期間を超えた本剤の長期投与時の安全性は確立していない。
15.1.4 関節リウマチを対象とした点滴静注製剤の海外臨床試験において、因果関係は不明であるが脱髄関連疾患が認められたとの報告がある。
15.1.5 海外の関節リウマチ患者を対象とした二重盲検比較試験における悪性腫瘍の発現率は、本薬点滴静注製剤投与群では1.60/100人・年(95%信頼区間:1.04-2.37、投与期間の中央値:0.5年、被験者数:2,644例、延べ投与:1,560人・年)、比較対照薬投与群(メトトレキサートあるいはDMARD)では1.48/100人・年(95%信頼区間:0.74-2.65、投与期間の中央値:0.5年、被験者数:1,454例、延べ投与:743人・年)であった。二重盲検比較試験を含む海外長期継続投与試験における悪性腫瘍の発現率は、1.62/100人・年(投与期間の中央値:4.6年、被験者数:4,009人、延べ投与:14,994人・年)であった
1)(外国人データ)。
15.2 非臨床試験に基づく情報
15.2.1 動物実験(マウス)において、gp130を介したシグナル伝達が心筋細胞の保護作用を有することが報告されている
2)。gp130を介してシグナル伝達に関与するサイトカインは複数知られており、IL-6もその一つである。本薬はIL-6の作用を阻害することから、心臓への影響は否定できない。
15.2.2 本薬はヒトとカニクイザルのIL-6レセプターに対しては中和活性を示すが、マウス及びラットのIL-6レセプターに対しては中和活性を示さない。このため、がん原性試験は実施されていない。
15.2.3 ヒト肝細胞を用いた
in vitro試験において、IL-6が肝薬物代謝酵素(CYPs)発現を抑制することが報告されていることから
3)4)5)、ヒト肝細胞にIL-6をトシリズマブ共存下で添加したところ、CYPsの発現に変化は認められなかった
6)。また、炎症反応を有する患者では、IL-6の過剰産生によりCYPsの発現が抑制されているとの報告がある
7)8)。関節リウマチ患者を対象とした点滴静注製剤による臨床試験において、投与後にIL-6阻害に伴ってCYP3A4、CYP2C19及びCYP2D6発現量が増加することが示唆された。このことから、過剰のIL-6によって抑制されていたCYPsの発現が本剤投与により回復し、炎症反応の改善に伴って併用薬の効果が減弱する可能性は否定できない
9)。
16.1 血中濃度
<本剤>
16.1.1 健康成人
(1)単回投与
海外健康成人を対象に本剤及び先行バイオ医薬品
注)をトシリズマブとして162mgを単回皮下投与し、薬物動態(PK)を検討した。PK解析対象(本剤:144例、先行バイオ医薬品:140例)におけるPKパラメータ(AUC
0-inf、AUC
0-last、Cmax、Tmax、t
1/2)を表1に示す。AUC
0-inf、AUC
0-last及びCmaxの幾何最小二乗(LS)平均値比の90.05%信頼区間はいずれも生物学的同等性の基準範囲内(80〜125%)であった
10)。
表1 本剤及び先行バイオ医薬品のPKパラメータ
| | AUC0-inf(day・μg/mL) | AUC0-last(day・μg/mL) | Cmax(μg/mL) | Tmax(day) | t1/2(day) |
| N | | N | | N | | N | | N | |
| 本剤 | 138 | 94.3(40.9) | 144 | 92.6(40.3) | 144 | 10.3(4.0) | 144 | 4.0(1.0〜9.0) | 138 | 1.6(0.7) |
| 先行バイオ医薬品 | 136 | 86.0(36.2) | 139 | 84.3(35.4) | 140 | 9.8(3.6) | 140 | 4.0(1.0〜7.0) | 136 | 1.7(0.7) |
また、各剤の血清中薬物濃度推移を図1に示す
10)。
図1 本剤及び先行バイオ医薬品の血清中薬物濃度推移
注)先行バイオ医薬品:欧州で承認されたトシリズマブ製剤
<アクテムラ皮下注162mgシリンジ・オートインジェクター>
16.1.2 関節リウマチ
(1)単回投与
関節リウマチ患者を対象にトシリズマブ81mg又は162mg
注1)を腹部に皮下投与した。血清中トシリズマブ濃度推移を図2、薬物動態パラメータを表2に示した
11)。
図2 関節リウマチ患者におけるトシリズマブ単回皮下投与後の血清中濃度推移(平均値+SD)(81mg投与群:8例、162mg投与群:12例又は8例(投与後17日目のみ))
表2 単回投与時の薬物動態パラメータ
| 投与量(mg) | 例数 | Tmax(day) | Cmax(μg/mL) | t1/2注2)(day) | AUClast(μg・day/mL) |
| 81 | 8 | 2.7±1.4 | 3.4±4.3 | N.A. | 21.4±33.3 |
| 162 | 12 | 4.6±2.4 | 10.9±5.6 | 1.6±0.2注3) | 96.7±53.7 |
注1)本剤の承認用量は1回162mgの皮下投与である。
注2)トシリズマブの体内動態は非線形性であり、血清中トシリズマブ濃度が低下した消失速度が速い相での消失半減期を算出した。
注3)11例
(2)反復投与
(a)2週間隔投与(点滴静注製剤との比較)
関節リウマチ患者を対象とした二重盲検比較試験において、トシリズマブ162mg/2週皮下注(皮下投与群)及びトシリズマブ8mg/kg/4週点滴静注(点滴静注群)
注1)の24週までの血清中トシリズマブのトラフ濃度推移を図3に示した。初回投与24週後の血清中トシリズマブ濃度は10.6±7.8μg/mL(皮下投与群、平均値±SD)及び12.4±7.9μg/mL(点滴静注群)であった
12)。
図3 関節リウマチ患者におけるトシリズマブ反復投与時の血清中トラフ濃度推移(平均値±SD)(皮下投与群:141例、点滴静注群:147例(24週時))
(b)1週間隔投与
トシリズマブ162mg/2週皮下注で効果が不十分な関節リウマチ患者を対象とした二重盲検比較試験において、トシリズマブ162mg/1週皮下注及びトシリズマブ162mg/2週皮下注の12週までの血清中トシリズマブのトラフ濃度推移は、試験開始後12週の血清中トシリズマブ濃度は19.7±14.3μg/mL(1週皮下投与群、平均値±SD)及び3.94±3.12μg/mL(2週皮下投与群)であった
13)。
17.1 有効性及び安全性に関する試験
<本剤>
17.1.1 関節リウマチ
(1)海外第III相二重盲検比較試験(点滴静注製剤の結果)
中等度から重度の関節リウマチ患者を対象として二重盲検、実薬対照並行群間比較試験を実施した。メトトレキサート
注1)及び葉酸
注2)を併用し、本剤又は先行バイオ医薬品
注3)8mg/kg(800mg/doseを超えない)をトシリズマブとして4週間隔で48週まで投与した
注4)。24週以降は、先行バイオ医薬品群を先行バイオ医薬品の継続投与群又は本剤への切り替え群に割付けた。主要評価項目に設定されたベースラインから12週時のDAS28(ESR)
注5)の平均変化量の群間差及びその95%信頼区間を下表に示す。95%信頼区間は事前に規定した同等性許容域の範囲(−0.6〜0.6)内であり、臨床的同等性が確認されたと判断した
14)。
表1 ベースラインから12週時のDAS28(ESR)
| | 全ての患者 |
| 本剤 | 先行バイオ医薬品 |
| 患者数 | 221 | 225 |
| LS平均値(SE) | −3.01(0.121) | −3.00(0.120) |
| LS平均差 | −0.01 |
| 95%信頼区間 | −0.26,0.24 |
投与開始から試験終了まで本剤を継続投与した群の副作用発現頻度は234例中141例(60.3%)であった。主な副作用は、ALT増加39例(16.7%)、好中球減少症25例(10.7%)、白血球減少症23例(9.8%)、上気道感染22例(9.4%)潜伏結核16例(6.8%)、AST増加16例(6.8%)であった。
注1)メトトレキサート(10〜25mg/週、経口又は非経口)
注2)葉酸(≧5mg/週、経口)
注3)先行バイオ医薬品:欧州で承認されたトシリズマブ製剤
注4)点滴静注製剤を使用
注5)赤血球沈降速度に基づく28関節疾患活動性スコア
<アクテムラ皮下注162mgシリンジ・オートインジェクター>
17.1.2 関節リウマチ
(1)国内第III相二重盲検並行群間比較試験(2週間隔投与:点滴静注製剤との比較)
1剤以上のDMARDで効果不十分な関節リウマチ患者を対象とし、トシリズマブ162mg/2週皮下注(皮下投与群)又はトシリズマブ8mg/kg/4週点滴静注(点滴静注群)
注1)を24週間投与する二重盲検比較試験(非劣性試験)を実施した。二重盲検比較試験終了後、162mg/2週皮下注を非盲検下で継続投与した。成績は以下のとおりであった。[
7.4参照]
注1)本剤の承認用量は1回162mgの皮下投与である。
・症状の緩和
初回投与24週後のACR基準
#120%、50%及び70%改善頻度を下記の表2に示す。ACR基準20%改善頻度は、皮下投与群で79.2%であったのに対し、点滴静注群で88.5%であった
12)。(群間差
注2):−9.4%、95%信頼区間:−17.6%、−1.2%、非劣性の限界値:−18%)
表2 初回投与24週後のACR基準20%、50%及び70%改善頻度
| | 点滴静注群 | 皮下投与群 | 群間差注2) [95%信頼区間] |
| 例数 | 156 | 159 |
| ACR20 | 88.5% | 79.2% | −9.4% [−17.6;−1.2] |
| ACR50 | 67.3% | 63.5% | −4.3% [−14.7;6.0] |
| ACR70 | 41.0% | 37.1% | −3.8% [−14.5;6.8] |
注2)群間差(皮下投与群−点滴静注群)は登録時の体重(60kg未満、60kg以上)と抗TNF製剤の前治療の有無を層別因子とし、Mantel-Haenszel法を用いて調整した。
・長期投与による症状の緩和
本剤の非盲検下での継続投与(例数:147例
#2)において、初回投与72週後でのACR基準
#120%、50%及び70%改善頻度はそれぞれ89.1%、73.5%及び56.5%であった
15)。
#1 アメリカリウマチ学会(ACR)の臨床的改善の評価基準
#2 本試験にて皮下投与群に割付けられ初回投与72週後に有効性評価できた症例
安全性解析対象症例のうち、初回投与後24週までに、本剤の2週間隔投与下の173例において、144例(83.2%)に副作用が認められた。主な副作用は、コレステロール増加31例(17.9%)、鼻咽頭炎29例(16.8%)、LDL増加24例(13.9%)、トリグリセリド増加18例(10.4%)であった。
(2)国内第III相二重盲検並行群間比較試験(1週間隔投与:2週間隔投与との比較)
トシリズマブ162mg/2週皮下注で効果が不十分な関節リウマチ患者を対象とし、トシリズマブ162mg/2週皮下投与群(Q2W群)又はトシリズマブ162mg/1週皮下投与群(QW群)を12週間投与する二重盲検比較試験を実施した。二重盲検比較試験終了後、162mg/1週皮下注を非盲検下で継続投与した。成績は以下のとおりであった
16)。
・症状の緩和
初回投与12週後のDAS28(Disease Activity Score)変化量を下記の表3に示す。DAS28変化量の平均値は、Q2W群で−0.84であったのに対し、QW群で−2.14であった。群間差
注3)は−1.21(95%信頼区間:−2.13、−0.30;P=0.0108)であり、有意であった。
表3 初回投与12週後のDAS28のベースラインからの変化量
| | Q2W群 | QW群 | 群間差注3) [95%信頼区間] P値 |
| 例数 | 20 | 21 |
| ベースライン | 5.49±1.37 | 5.91±1.23 | / |
| 投与12週後 | 4.65±1.81 | 3.77±1.62 |
| ベースラインからの変化量 | −0.84±1.14 | −2.14±1.71 | −1.21 [−2.13;−0.30] P=0.0108 |
注3)群間差(QW群−Q2W群)は、登録時のDAS28を共変量とした共分散分析。
・長期投与による症状の緩和
本剤の1週間隔での非盲検下の継続投与(例数:14例#3)において、初回投与52週後でのDAS28変化量の平均値は−2.93であった。
#3 本試験にてQW群に割り付けられ初回投与52週後に有効性評価できた症例
安全性解析対象症例のうち、本剤の1週間隔投与下の42例において、38例(90.5%)に有害事象が認められた。主な有害事象は、鼻咽頭炎9例(21.4%)、咽頭炎5例(11.9%)、下痢4例(9.5%)、上腹部痛3例(7.1%)であった。
(3)海外第III相二重盲検並行群間比較試験
1剤以上のDMARDで効果不十分な関節リウマチ患者を対象とし、DMARD併用下でトシリズマブ162mg/2週皮下注(例数:437例)又はプラセボ(例数:219例)を24週間投与する二重盲検比較試験を実施した。成績は以下のとおりであった
17)(外国人データ)。
・症状の緩和
初回投与24週後のACR基準20%改善頻度は、プラセボ群31.5%に対し、本剤投与群で60.9%と有意に高かった(P<0.0001、Cochran-Mantel-Haenszel検定)。
・関節の構造的損傷の防止
投与前から24週までの関節破壊進展を手及び足のX線スコア(Modified Sharp Score)で評価した結果、Totalスコアにおいて、プラセボ群で1.23悪化したのに対して、本剤投与群は0.62であり、有意に関節破壊の進行が抑制された(P=0.0149、van Elteren検定)。
安全性解析対象症例のうち、初回投与後24週までに、本剤の2週間隔投与下の437例において、274例(62.7%)に有害事象が認められた。主な有害事象は、注射部位反応31例(7.1%)、上気道感染28例(6.4%)であった。
18.1 作用機序
<アクテムラ皮下注162mgシリンジ・オートインジェクター>
本薬は
in vitroにおいて、可溶性及び膜結合性IL-6レセプターに結合してそれらを介したIL-6の生物活性の発現を抑制した
18)。また、本薬は、カニクイザルに投与されたヒトIL-6の活性発現を抑制した
19)。
18.2 関節炎抑制・改善作用
<アクテムラ皮下注162mgシリンジ・オートインジェクター>
本薬は、カニクイザルコラーゲン誘発関節炎において、関節炎発症前からの投与により関節腫脹の発現を抑制するとともに、関節炎発症後の投与により関節の腫脹を改善した
20)21)。
18.3 IL-6トランスジェニックマウスでの病態発現抑制作用
<アクテムラ皮下注162mgシリンジ・オートインジェクター>
抗マウスIL-6レセプター抗体は、IL-6トランスジェニックマウスでの貧血状態、蛋白尿、高γグロブリン血症等の所見の発現を抑制し、生存日数を延長させた
22)。
医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること。
<トシリズマブBS皮下注162mgシリンジ「CT」>
<トシリズマブBS皮下注162mgオートインジェクター「CT」>
26.1 製造販売元
セルトリオン・ヘルスケア・ジャパン株式会社
〒104-0033
東京都中央区新川一丁目16番3号 住友不動産茅場町ビル3階