2.1 高度の徐脈(著しい洞性徐脈)、房室ブロック(II、III度)、洞房ブロックのある患者[刺激伝導系に抑制的に作用するため症状を悪化させるおそれがある。]
2.2 糖尿病性ケトアシドーシス、代謝性アシドーシスのある患者[アシドーシスに伴う心筋収縮力の抑制を助長する可能性がある。]
2.3 気管支喘息、気管支痙攣のおそれのある患者[気管支平滑筋を収縮させることがあるので、症状を悪化させるおそれがある。]
2.4 心原性ショックのある患者[心拍出量低下作用により症状を悪化させるおそれがある。]
2.5 肺高血圧による右心不全のある患者[心拍出量が抑制され、症状が悪化するおそれがある。]
2.6 うっ血性心不全のある患者[心筋収縮力を抑制して症状を悪化させるおそれがある。]
2.7 未治療の褐色細胞腫又はパラガングリオーマのある患者[7.、
9.1.7参照]
2.8 妊婦又は妊娠している可能性のある女性[
9.5参照]
2.9 ホスホジエステラーゼ5阻害作用を有する薬剤(シルデナフィルクエン酸塩、バルデナフィル塩酸塩水和物、タダラフィル)又はリオシグアトを投与中の患者[
8.5、
10.1参照]
通常成人にはニプラジロールとして、1日6〜12mgを1日2回に分割経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減するが、最高用量は1日18mgとする。
褐色細胞腫又はパラガングリオーマのある患者では、α遮断薬で初期治療を行った後に本剤を投与し、常にα遮断薬を併用すること。[
2.7、
9.1.7参照]
8.1 長期投与の場合は、心機能検査(脈拍、血圧、心電図、X線等)を定期的に行うこと。特に徐脈又は低血圧の症状があらわれた場合には減量又は投与を中止すること。また、必要に応じアトロピンを投与するなど対症療法を行うこと。なお、肝機能、腎機能、血液像等に注意すること。
8.2 類似化合物(プロプラノロール塩酸塩)使用中の狭心症のある患者で急に投与を中止したとき、症状が悪化したり、心筋梗塞を起こした症例が報告されているので、休薬を要する場合は徐々に減量し、観察を十分に行うこと。また、患者に医師の指示なしに服薬を中止しないよう注意すること。狭心症以外の適用、例えば高血圧で投与する場合でも、特に高齢者においては同様の注意をすること。[
9.8.2参照]
8.3 手術前24時間は投与しないことが望ましい。
8.4 めまい、ふらつきがあらわれることがあるので、本剤投与中の患者(特に投与初期)には、高所作業、自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には注意させること。
8.5 本剤とホスホジエステラーゼ5阻害作用を有する薬剤(シルデナフィルクエン酸塩、バルデナフィル塩酸塩水和物、タダラフィル)又はリオシグアトとの併用により降圧作用が増強し、過度に血圧を低下させることがあるので、本剤投与前にこれらの薬剤を服用していないことを十分確認すること。また、本剤投与中及び投与後においてこれらの薬剤を服用しないよう十分注意すること。[
2.9、
10.1参照]
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 甲状腺中毒症のある患者
休薬を要する場合には徐々に減量し、観察を十分に行うこと。急に投与を中止すると、症状を悪化させることがある。
9.1.2 うっ血性心不全のおそれのある患者
観察を十分に行い、ジギタリス剤を併用するなど慎重に投与すること。心筋収縮力を抑制して心不全を顕在化させるおそれがある。[
11.1.1参照]
9.1.3 特発性低血糖症、コントロール不十分な糖尿病、長期間絶食状態の患者
血糖値に注意すること。低血糖の前駆症状である頻脈等の交感神経系反応をマスクしやすい。
9.1.4 徐脈、房室ブロック(I度)のある患者
心機能の悪化に注意すること。心刺激伝導系を抑制し、症状を悪化させるおそれがある。[
11.1.1参照]
9.1.5 末梢循環障害のある患者(レイノー症候群、間欠性跛行症等)
末梢血管の拡張を抑制し、症状を悪化させるおそれがある。
9.1.6 異型狭心症のある患者
9.1.7 褐色細胞腫又はパラガングリオーマのある患者
β遮断薬の単独投与により急激に血圧が上昇することがある。[
2.7、7.参照]
9.2 腎機能障害患者
9.3 肝機能障害患者
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないこと。動物実験で、高用量投与により胎児の死亡率増加及び発育抑制、死産児数の増加、新生児生存率の低下が報告されている。[
2.8参照]
9.6 授乳婦
本剤投与中は授乳を避けさせること。動物実験で母乳中へ移行することが報告されている。
9.7 小児等
小児等を対象とした有効性及び安全性を指標とした臨床試験は実施していない。
9.8 高齢者
9.8.1 少量から投与を開始するなど患者の状態を観察しながら慎重に投与すること。脳梗塞等が起こるおそれがあるため、一般に過度の降圧は好ましくないとされている。
9.8.2 休薬を要する場合は、徐々に減量すること。[
8.2参照]
11.1 重大な副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.1.1 心不全、完全房室ブロック、洞停止、高度徐脈(0.1%未満)[
9.1.2、
9.1.4参照]
発現頻度は使用成績調査を含む。
11.2 その他の副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
| 0.1〜1.0% | 0.1%未満 | 頻度不明 |
過敏症 | | 発疹、そう痒感 | |
精神神経系 | めまい・ふらつき、頭痛・頭重 | しびれ感、もうろう状態、眠気、不眠 | |
眼 | | 霧視 | 涙液分泌減少等注) |
感覚器 | | 耳鳴、味覚障害 | |
消化器 | | 悪心・嘔吐、食欲不振、腹痛、腹部不快感、胸やけ、下痢、便秘、口渇 | |
肝臓 | | AST、ALT、γGTP、LAP、LDHの上昇 | |
代謝系 | | 尿酸値の上昇、CK、AL-Pの上昇、糖尿病悪化、高脂血症 | |
循環器 | 徐脈 | 末梢循環障害、胸痛、心胸郭比増大、動悸、不整脈感、不整脈、房室解離、PQ延長、熱感、浮腫 | |
呼吸器 | | 喘息様症状、息切れ、咳、咽頭不快感、鼻閉、鼻出血 | |
血液 | | 白血球増多、白血球減少、好酸球増多、血小板減少 | |
腎臓 | | BUN上昇、尿量減少、クレアチニン上昇 | |
その他 | 脱力倦怠感 | 睾丸痛、性欲亢進、発汗、疼痛(四肢)、肩こり、頚部硬直、嗄声 | |
13.1 症状
β遮断薬の過量投与により、徐脈、完全房室ブロック、心不全、低血圧、気管支痙攣等があらわれることがある。
13.2 処置
本剤の投与を中止し、必要に応じて胃洗浄等により薬剤の除去を行うとともに、下記等の適切な処置を行うこと。
・徐脈、完全房室ブロック
アトロピン硫酸塩水和物、イソプレナリン等の投与や心臓ペーシングを適用すること。
・心不全、低血圧
強心剤、昇圧剤、輸液等の投与や補助循環を適用すること。
・気管支痙攣
β2刺激薬又はアミノフィリン水和物の静注や補助呼吸を適用すること。
これらの処置の間は常に観察下におくこと。
14.1 薬剤交付時の注意
PTP包装の薬剤はPTPシートから取り出して服用するよう指導すること。PTPシートの誤飲により、硬い鋭角部が食道粘膜へ刺入し、更には穿孔をおこして縦隔洞炎等の重篤な合併症を併発することがある。
15.1 臨床使用に基づく情報
β遮断薬服用中の患者では、他の薬剤によるアナフィラキシー反応がより重篤になることがあり、また、通常用量のアドレナリンによる治療に抵抗する場合がある。
16.1 血中濃度
16.1.1 単回投与
健康成人男性6例に本剤1〜24mg
注)を単回経口投与したとき、平均2時間で最高血漿中濃度に達し、生物学的半減期は平均3.7時間であった
1)。
16.1.2 反復投与
健康成人男性5例に本剤6mgを1日2回7日間反復経口投与したとき、血漿中ニプラジロール濃度の推移から求めた薬物動態パラメータは次表のとおりであった
1)。
表 本剤6mg反復経口投与時の薬物動態パラメータ(健康成人男性)
Cmax(ng/mL) | Cmin(ng/mL) | Tmax(h) | T1/2(h) |
4.7(4.3-5.8) | 0.6(0.5-0.7) | 2.4(2.4-2.6) | 3.2(2.9-3.3) |
16.3 分布
16.3.1 血漿蛋白結合率
ニプラジロールのヒト血漿蛋白結合率は34%であった(平衡透析法)。
16.4 代謝
健康成人男性6例に本剤6mgを単回経口投与したとき、血漿中の主代謝物として脱ニトロニプラジロール、ニプラジロールのグルクロン酸抱合体及び脱ニトロニプラジロールのグルクロン酸抱合体が認められた
1)。
16.5 排泄
健康成人男性3例に本剤12〜24mg
注)を単回経口投与したとき、24時間までの未変化体及び各代謝物の平均尿中排泄率の合計は59.2%であった
1)。
注)本剤の承認された用法及び用量は「1日6〜12mgを1日2回に分割経口投与する」である。
18.1 作用機序
ニプラジロールはβ受容体遮断作用に加えてニトログリセリンに類似した血管拡張作用を有し、降圧作用及び抗狭心症作用を示す。
18.2 β受容体遮断作用
本剤のβ受容体遮断作用は非選択的で、内因性交感神経刺激作用を有さなかった
11)(モルモット
in vitro)。健康成人男性への本剤の単回経口投与により、エルゴメーター負荷による心拍数の増加を抑制することが確認された
12)。
18.3 血管拡張作用
本剤はNOによる血管拡張作用を有し、その作用は動脈のみならず静脈にも及んだ。冠動脈では、特に太い部分を選択的に拡張する作用を示した
11)13)14)15)16)17)(イヌ
in vitro、ラット、イヌ)。また長期間反復経口投与により自然発症高血圧ラットの低下した静脈伸展性を改善した
18)。高血圧症患者への本剤の1日2回反復経口投与により、容量血管系に対する拡張作用と考えられる心肺血液量の減少が確認された
19)。
18.4 降圧作用
各種実験的高血圧(自然発症高血圧、DOCA/Saline高血圧、腎性高血圧、脳卒中易発症高血圧)ラットに本剤を単回経口投与したとき、持続性の降圧作用を示した
11)20)。また自然発症高血圧ラットの高血圧進展期に反復経口投与したとき、投与開始後2週より非投与群と比較して有意に血圧の上昇を抑制し、降圧作用を示した
21)。高血圧症患者への本剤の1日2回反復経口投与により、持続的な降圧作用を示すことが確認された
22)。
18.5 抗狭心症作用
18.5.1 太い冠動脈の拡張作用
無麻酔イヌの太い冠動脈径を拡大させた
23)。また麻酔イヌの冠動脈内バルーン挿入による部分狭窄下で、本剤は明らかな冠血流の増加を示した。さらにイヌ虚血心筋モデルにおいて、本剤は局所心筋の機能不全及び心筋代謝障害を改善した
24)。
18.5.2 心臓前負荷軽減作用
麻酔イヌにおいて本剤は左室拡張終期圧、左室内径、中心静脈圧を指標とした心臓の前負荷軽減作用を示した。この作用は本剤の静脈還流量の減少作用によるものであった
13)25)。