本剤の作用機序として、中枢性鎮痛機構であるモノアミン作動性下行性疼痛抑制系の活性化作用、侵害刺激局所における起炎物質であるブラジキニンの遊離抑制作用、末梢循環改善作用等が考えられる。
18.1.1 下行性疼痛抑制系の活性化作用(マウス、ラット)
(1)本剤の痛覚過敏改善作用は、腹腔内又は脊髄くも膜下腔内投与に比べて中枢の大槽内投与で強く認められた。(SARTストレスマウス)
9)(2)本剤は、セロトニン(5-HT)作動性の下行性疼痛抑制系の中継核である延髄大縫線核の機能低下を改善した。(SARTストレスラット)
10)(3)本剤の痛覚過敏改善作用は、下行性疼痛抑制系ニューロンが投射する脊髄に、5-HT
3受容体又はノルアドレナリン(NA)作動性のα
2受容体拮抗薬を脊髄くも膜下腔内投与すると抑制された。なお、本剤の作用はオピオイド受容体拮抗薬であるナロキソンの脊髄くも膜下腔内投与では拮抗されなかった。(SARTストレスラット)
11)(4)本剤の痛覚過敏改善作用は、下行性疼痛抑制系の5-HT又はNA作動性神経を延髄又は脊髄レベルで選択的に薬物破壊すると抑制された。(SARTストレスラット)
12)また、本剤の痛覚過敏改善作用と抗アロディニア作用は、NA作動性神経を脊髄レベルで選択的に薬物破壊すると抑制された。(SNLマウス)
13)
18.1.2 ブラジキニン遊離抑制作用(ラット)
ラット足趾に侵害刺激(圧刺激)を加えると、刺激局所にブラジキニン(BK)やプロスタグランジンE
2(PGE
2)等が増加する。この試験系に本剤10〜50NU/kgを単回経口投与すると、PGE
2遊離には影響を及ぼさなかったが、BK遊離を用量依存的に抑制した。一方、インドメタシンはPGE
2遊離を抑制したが、BK遊離には影響を及ぼさなかった。
14)
18.1.3 末梢循環改善作用に基づく患部冷温域の皮膚温上昇作用(臨床)
整形外科領域における有痛性患者の患部皮膚温に対する本剤の効果をサーモグラフィーで評価した。本剤2錠(8NU)の経口投与により、患部皮膚温の低下を改善し(健側・患側の温度差縮小)、患部冷温域により強く作用する選択効果が示唆された。
15)
18.1.4 末梢神経損傷部位における脱髄(末梢神経の軸索を囲む髄鞘が障害され、軸索がむき出しになること)に対する作用(マウス、ラット)
(1)脱髄の抑制作用(マウス)
マウスの坐骨神経を縫合糸(chromic gut)で緩く結紮すると、損傷した坐骨神経の周囲で炎症と脱髄が引き起こされる。このCCI(慢性絞扼性神経損傷)モデルマウスを用いて、末梢神経の損傷に対する本剤の効果を検討した。本剤をCCI手術3日前より200NU/kg/dayで連日経口投与することで、CCI術後1日目の坐骨神経の損傷部位における炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6及びTNF-α)の発現増加及びCCI術後5日目の坐骨神経の脱髄の進行を抑制した。
16)
(2)脱髄の改善作用(ラット)
ラット皮膚切開後、坐骨神経内にリゾホスファチジルコリン注射を行うと、7日後に坐骨神経の脱髄がピークに達する。このリゾホスファチジルコリン誘発脱髄モデルラットを用いて、末梢神経の髄鞘を形成するシュワン細胞に対する本剤の効果を検討した。ラット坐骨神経内にリゾホスファチジルコリン注射7日後に、本剤を充てんした24時間持続性放出型浸透圧ポンプをラットの背部皮下に埋め込み、24NU/kg/日で7日間全身持続投与することで、坐骨神経の脱髄を改善し、温熱性及び機械刺激性痛覚鈍麻を回復させた。
17)
本剤は、非ステロイド性消炎鎮痛剤やオピオイドと異なり、プロスタグランジン産生系やオピオイド系に作用せず、正常動物を用いた鎮痛薬評価系よりも痛覚過敏モデルとされるSARTストレス(反復寒冷負荷)動物、CCI(慢性絞扼性神経損傷)ラットやSNL(脊髄神経結紮)マウスに対して優れた効果を示す。また、末梢侵害刺激局所において、起炎物質であるブラジキニンの遊離抑制作用を示し、これらは本剤の薬効薬理における特長をなす。
11)13)14)18)19)20)21)22)18.2.1 SARTストレス(反復寒冷負荷)動物における痛覚過敏改善効果
動物の飼育温度を昼間は1時間ごとに室温(24℃)と低温(マウス4℃、ラット−3℃)に変化させ、夜間は低温で飼育する(SARTストレス)と、4日目以降から安定した痛覚閾値の低下が認められ、痛覚過敏モデルとなる。
このSARTストレスマウスに本剤を単回経口投与すると、用量依存的な鎮痛効果が認められ、その鎮痛効力(ED
50値)は207NU/kg(NU:ノイロトロピン単位)で、正常動物の場合(617NU/kg)より強かった。
23)また、本剤の連日経口投与により、SARTストレスマウスの痛覚過敏が用量依存的に抑制された。そのED
50値は単回投与の場合より小さく、7日目で76NU/kgとなり、本剤の反復投与により鎮痛効力が増大した。一方、SARTストレスマウスの痛覚過敏は、インドメタシン等の非ステロイド性消炎鎮痛剤ではほとんど改善されなかった。
24)
18.2.2 CCI(慢性絞扼性神経損傷)ラットにおける痛覚過敏の改善効果及び発症抑制効果
ラットの坐骨神経を縫合糸(chromic gut)で緩く結紮すると、数日後から痛覚過敏が惹起される。このCCI術後14日目の痛覚過敏ラットに、本剤100NU/kgを単回腹腔内投与すると、温熱性及び機械刺激性痛覚過敏が抑制された。更に、本剤50NU/kgを術後7日目から1週間、連日腹腔内投与すると、投与終了から2週間にわたって効果が持続し、CCI処置による温熱性痛覚過敏を改善した。
21)また、CCIモデルにおける痛覚過敏の発症に対する本剤の効果を検討した。CCI術日の翌日から10日間、本剤100又は200NU/kg/dayの連日腹腔内投与により、CCI処置による温熱性痛覚過敏の発症を用量依存的に抑制した。
22)
18.2.3 SNL(脊髄神経結紮)マウスにおける痛覚過敏改善効果及び抗アロディニア効果
マウスの第5腰椎神経を絹糸できつく結紮すると、数日後から痛覚過敏とアロディニアが惹起される。このSNL術後7日目のマウスに、本剤50〜200NU/kgを単回腹腔内投与すると、温熱性及び機械刺激性痛覚過敏、及びアロディニアが用量依存的に抑制された。
13)