1.1 本剤の投与は、がん疼痛の治療に精通し、本剤のリスク等について十分な知識を持つ医師のもとで、適切と判断される症例についてのみ行うこと。
1.3 本剤投与開始時及び増量時には、特に患者の状態を十分に観察し、副作用の発現に注意すること。本剤の薬物動態は個人差が大きく、さらに呼吸抑制は鎮痛効果よりも遅れて発現することがある。また、他のオピオイド鎮痛剤に対する耐性を有する患者では、本剤に対する交差耐性が不完全であるため、過量投与となることがある。[
7.1.1、
7.1.2、
7.2.1、
7.4.1、
7.4.3、
8.1、
13.1参照]
2.2 気管支喘息発作中の患者[呼吸を抑制し、気道分泌を妨げる。]
2.3 麻痺性イレウスの患者[消化管運動を抑制する。][
11.1.7参照]
2.4 急性アルコール中毒の患者[呼吸抑制を増強する。]
2.5 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2.6 出血性大腸炎の患者[腸管出血性大腸菌(O157等)や赤痢菌等の重篤な細菌性下痢のある患者では、症状の悪化、治療期間の延長を来すおそれがある。]
2.7 ナルメフェン塩酸塩水和物を投与中又は投与中止後1週間以内の患者[
10.1参照]
他の強オピオイド鎮痛剤で治療困難な下記疾患における鎮痛
本剤は、他の強オピオイド鎮痛剤の投与では十分な鎮痛効果が得られない患者で、かつオピオイド鎮痛剤の継続的な投与を必要とするがん疼痛の管理にのみ使用すること。[
14.1.1参照]
本剤は、他の強オピオイド鎮痛剤から切り替えて使用する。
通常、成人に対し初回投与量は本剤投与前に使用していた強オピオイド鎮痛剤の用法・用量を勘案して、メサドン塩酸塩として1回5〜15mgを1日3回経口投与する。
その後の投与量は患者の症状や状態により適宜増減する。
7.1 初回投与量
7.1.1 本剤の薬物動態は個人差が大きく、他のオピオイド鎮痛剤との交差耐性が不完全であるため、本剤と他のオピオイド鎮痛剤の等鎮痛比は確立していない。[
1.3参照]
7.1.2 下記換算表は、初回投与量を選択する際の目安であり、換算比は本剤投与前に使用していたオピオイド鎮痛剤の投与量により大幅に異なる。患者の症状や状態、オピオイド耐性の程度、併用薬剤を考慮して適切な用量を選択し、過量投与にならないよう注意すること。[
1.3参照]
7.1.3 経口モルヒネ量60mg/日未満のオピオイド鎮痛剤からの切り替えは推奨されない。
投与量換算表(本剤初回投与時の目安)
メサドン塩酸塩(mg/日) | 15mg/日(5mg/回×3回) | 30mg/日(10mg/回×3回) | 45mg/日(15mg/回×3回) |
モルヒネ経口剤(mg/日) | 60≦〜≦160 | 160<〜≦390 | 390< |
7.2 初回投与時
7.2.1 本剤投与後少なくとも7日間は増量を行わないこと。本剤の血中濃度が定常状態に達するまでに時間を要することから、7日未満の増量は過量投与となる可能性がある。[
1.3、
7.4.1、
16.1.2参照]
7.2.2 フェンタニル貼付剤から本剤へ変更する場合には、フェンタニル貼付剤剥離後にフェンタニルの血中濃度が50%に減少するまで17時間以上かかることから、剥離直後の本剤の使用は避け、本剤の使用を開始するまでに、フェンタニルの血中濃度が適切な濃度に低下するまでの時間をあけるとともに、本剤の低用量から投与することを考慮すること。
7.3 疼痛増強時
本剤服用中に疼痛が増強した場合や鎮痛効果が得られている患者で突発性の疼痛が発現した場合は、直ちに速効性のオピオイド鎮痛剤の臨時追加投与(レスキュー薬の投与)を行い鎮痛を図ること。
7.4 増量
7.4.1 本剤初回投与後及び増量後少なくとも7日間は増量を行わないこと。呼吸抑制を発現するおそれがある。[
1.3、
7.2.1、
16.1.2参照]
7.4.2 鎮痛効果が得られるまで患者毎に用量調整を行うこと。鎮痛効果が得られない場合は、1日あたり本剤1日投与量の50%、1回あたり5mgを上限に増量すること。
7.4.3 本剤を増量する場合には、副作用に十分注意すること。[
1.3参照]
7.5 減量
連用中における急激な減量は、退薬症候があらわれることがあるので行わないこと。副作用等により減量する場合は、患者の状態を観察しながら慎重に行うこと。
7.6 投与の中止
本剤の投与を中止する場合には、退薬症候の発現を防ぐために徐々に減量すること。副作用等により直ちに投与を中止する場合は、退薬症候の発現に注意すること。
8.2 高用量の強オピオイド鎮痛剤からの切り替え、呼吸抑制を起こしやすい患者等では、入院又はそれに準じる管理の下で本剤の投与開始及び用量調節を行うなど、重篤な副作用発現に関する観察を十分に行うこと。[
1.2、
2.1、
8.1、
8.4、
9.1.5、
11.1.3参照]
8.3 QT延長があらわれることがあるので、本剤投与開始前及び本剤投与中は定期的に心電図検査及び電解質検査を行い、患者の状態を十分に観察すること。特に、本剤1日投与量が100mgを超える前及びその1週間後、QT延長を起こしやすい患者では、本剤の投与量が安定した時点で心電図検査を行うことが望ましい。異常が認められた場合には、必要に応じて休薬、減量又は中止し、適切な処置を行うこと。[
1.2、
8.1、
9.1.3、
9.1.4、
11.1.4、
13.2.3参照]
8.4 重篤な呼吸抑制が認められた場合には、投与を中止し、呼吸管理を行うこと。呼吸抑制に対しては麻薬拮抗剤(ナロキソン、レバロルファン等)が有効であるが、麻薬拮抗剤の作用持続時間は本剤より短いので、観察を十分に行い麻薬拮抗剤の繰り返し投与を考慮すること。[
1.2、
2.1、
8.1、
8.2、
9.1.5、
11.1.3、
13.2.2参照]
8.5 本剤を投与する場合には、便秘に対する対策として緩下剤、嘔気・嘔吐に対する対策として制吐剤の併用を、また、鎮痛効果が得られている患者で通常とは異なる強い眠気がある場合には、過量投与の可能性を念頭において本剤の減量を考慮するなど、本剤投与時の副作用に十分注意すること。
8.6 連用により薬物依存を生じることがあるので、患者の状態を十分に観察し、慎重に投与すること。[
9.1.11、
11.1.2参照]
8.7 重篤な副作用が発現した患者については、本剤の血中動態を考慮し、投与中止時から少なくとも48時間後まで観察を継続すること。
8.8 眠気、めまいが起こることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること。
8.9 本剤は種々の薬剤との相互作用が報告されていることから、併用薬剤に十分注意して投与すること。[
10.参照]
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 細菌性下痢のある患者
治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと。治療期間の延長を来すおそれがある。
9.1.2 心機能障害又は低血圧のある患者
9.1.3 QT延長のある患者
9.1.4 QT延長を起こしやすい患者
QT延長が起こるおそれがある。[
1.2、
8.1、
8.3、
11.1.4、
13.2.3参照]
(1)QT延長の既往歴のある患者
(2)低カリウム血症、低マグネシウム血症又は低カルシウム血症のある患者
(3)心疾患(不整脈、虚血性心疾患等)のある患者
(4)QT延長を起こすことが知られている薬剤を投与中の患者
9.1.5 呼吸機能障害のある患者
9.1.6 脳に器質的障害のある患者
9.1.7 ショック状態にある患者
9.1.8 代謝性アシドーシスのある患者
9.1.9 てんかん等の痙攣性疾患又はこれらの既往歴のある患者
9.1.10 甲状腺機能低下症(粘液水腫等)、副腎皮質機能低下症(アジソン病等)又は衰弱者
9.1.11 薬物依存の既往歴のある患者
9.1.12 前立腺肥大による排尿障害、尿道狭窄、尿路手術術後の患者
9.1.13 器質的幽門狭窄、重篤な炎症性腸疾患又は最近消化管手術を行った患者
9.1.14 胆嚢障害、胆石症又は膵炎の患者
9.2 腎機能障害患者
9.3 肝機能障害患者
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。動物実験(ラット、マウス、ハムスター)で、母動物の死亡、死産、胎児の体重減少、催奇形作用(骨化異常、外脳、頭蓋裂、脊髄のねじれ等)が報告されている
1)2)3)4)。
分娩前に投与した場合、出産後新生児に退薬症候(多動、神経過敏、不眠、振戦等)があらわれることがある
5)。
分娩時の投与により、新生児に呼吸抑制があらわれることがある。
9.6 授乳婦
授乳を避けさせること。ヒト母乳中へ移行し、母親の経口投与量が10〜80mg/日のとき、メサドンの乳汁中濃度は0.05〜0.57μg/mLになることが報告されている
6)。
9.7 小児等
9.8 高齢者
低用量から投与を開始するなど患者の状態を観察しながら、慎重に投与すること。一般に生理機能が低下しており、特に呼吸抑制の感受性が高い。
11.1 重大な副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.1.1 ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)
顔面蒼白、血圧低下、呼吸困難、頻脈、全身発赤、血管浮腫、蕁麻疹等の症状があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
11.1.2 依存性(頻度不明)
連用により薬物依存を生じることがある。また、連用中における投与量の急激な減少ないし投与の中止により、あくび、くしゃみ、流涙、発汗、悪心、嘔吐、下痢、腹痛、散瞳、頭痛、不眠、不安、せん妄、痙攣、振戦、全身の筋肉・関節痛、呼吸促迫、動悸等の退薬症候があらわれることがあるので、投与を中止する場合には、1日用量を徐々に減量するなど、患者の状態を観察しながら行うこと。[
8.6、
9.1.11参照]
11.1.3 呼吸停止、呼吸抑制(いずれも頻度不明)
息切れ、呼吸緩慢、不規則な呼吸、呼吸異常等があらわれた場合には、投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
なお、本剤による呼吸抑制には、麻薬拮抗剤(ナロキソン、レバロルファン等)が拮抗する。[
1.2、
2.1、
8.1、
8.2、
8.4、
9.1.5、
13.2.2参照]
11.1.5 錯乱(頻度不明)、せん妄(7.7%)
11.1.6 肺水腫、無気肺、気管支痙攣、喉頭浮腫(いずれも頻度不明)
11.1.7 腸閉塞(3.8%)
、麻痺性イレウス、中毒性巨大結腸(いずれも頻度不明)[
2.3参照]
11.1.8 肝機能障害(頻度不明)
AST(GOT)、ALT(GPT)、Al-P等の著しい上昇を伴う肝機能障害があらわれることがある。
11.2 その他の副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
| 10%以上 | 10%未満 | 頻度不明 |
循環器 | | | 不整脈、二段脈、徐脈、頻脈、T波逆転、血圧変動、失神、心筋症、動悸 |
精神神経系 | 眠気・傾眠 | 振戦 | 不眠、めまい、ふらふら感、幻覚、健忘、失見当識、激越、不安、鎮静、気分不快、多幸感、感覚異常、痙攣発作、頭痛、発汗、ミオクローヌス |
消化器 | 悪心、嘔吐、便秘 | 下痢 | 腹痛、口渇、味覚異常、食欲不振、舌炎、胆管痙攣 |
過敏症 | | 発疹 | そう痒症 |
血液 | | | 血小板減少症 |
泌尿器 | | | 排尿障害、尿閉 |
感覚器 | | | 視覚障害(霧視、複視等) |
その他 | | | 血管拡張(顔面潮紅、熱感)、潮紅、浮腫、呼吸困難、無力症、脱力、倦怠感、低カリウム血症、低マグネシウム血症、静脈炎、体重増加、無月経、性欲減退、性能力減退 |
13.1 徴候・症状
呼吸抑制、意識不明、痙攣、錯乱、血圧低下、重篤な脱力感、重篤なめまい、嗜眠、心拍数の減少、QT延長、心室頻拍(Torsade de pointesを含む)、神経過敏、不安、縮瞳、皮膚冷感、無呼吸、循環虚脱等を起こすことがある。[
1.3参照]
13.2 処置
13.2.1 投与を中止し、気道確保、補助呼吸及び調節呼吸により適切な呼吸管理を行う。
13.2.2 麻薬拮抗剤投与を行い、患者に退薬症候又は麻薬拮抗剤の副作用が発現しないよう慎重に投与する。なお、麻薬拮抗剤の作用持続時間はメサドンのそれより短いので、患者のモニタリングを行うか又は患者の反応に応じて初回投与後は注入速度を調節しながら持続静注する。[
8.4、
11.1.3参照]
13.2.4 必要に応じて、補液、昇圧剤等の投与又は他の補助療法を行う。
14.1 薬剤交付時の注意
14.1.1 強オピオイド鎮痛剤が投与されていた患者であることを確認した上で本剤を交付すること。[5.参照]
14.1.2 本剤の投与開始にあたっては、患者等に対して、主な副作用、相互作用、具体的な服用方法、服用時の注意点、保管方法等を患者向けの説明書を用いるなどの方法によって十分に説明すること。[
8.1、
8.10参照]
14.1.3 患者等に対して、本剤の目的以外への使用あるいは他人への譲渡をしないよう指導するとともに、本剤を子供の手の届かないところに保管するよう指導すること。[
8.10参照]
14.1.4 PTP包装の薬剤はPTPシートから取り出して服用するよう指導すること。PTPシートの誤飲により、硬い鋭角部が食道粘膜へ刺入し、更には穿孔を起こして縦隔洞炎等の重篤な合併症を併発することがある。
14.1.5 本剤が不要となった場合には、病院又は薬局へ返納するなどの処置について適切に指導すること。[
8.10参照]
17.1 有効性及び安全性に関する試験
17.1.1 国内第II相試験(オピオイド鎮痛剤を使用しているがん疼痛患者を対象とした切り替え試験)
他のオピオイド鎮痛剤(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル)により十分な疼痛管理が得られないがん疼痛患者(目標症例数:20例)を対象とした本剤への切り替え試験において、疼痛コントロールの達成率(至適用量に到達
注1)した患者)は85.0%(17例/20例)であった。また、切り替え前後の疼痛強度(NRS
注2))変化量の平均値とその95%信頼区間は-1.9[-2.7、-0.99]であった
24)。
注1)同一用量で6日間以上投与した翌日に以下の至適用量到達の判定基準をすべて満たす場合に、切り替えにより疼痛コントロールを達成したと判定した
<至適用量到達の判定基準>
1)評価日前日のレスキュー使用回数が1日2回以下であって、かつNRS注2)が切り替え前の値以下である
2)忍容できない副作用及び過量投与の兆候がない
3)その他、安全性・有効性観点から、投与量に問題ありと考えられる要因がない
注2)Numerical Rating Scale(「痛くない(0)」から「想像できる最大の痛み(10)」までの11段階の評価スケール)
17.1.2 国内臨床試験全期(第II相試験+長期投与試験)
本剤の承認時までに実施した国内臨床試験において、総症例26例中20例(76.9%)に43件の副作用(臨床検査値の異常変動を含む)が認められた。主な副作用は、傾眠13例(50.0%)、悪心6例(23.1%)、嘔吐5例(19.2%)、心電図QT延長4例(15.4%)、便秘4例(15.4%)及びせん妄2例(7.7%)等であった
25)。
17.2 製造販売後調査等
17.2.1 国内使用成績調査
使用成績調査において、安全性解析対象症例816例中360例(44.1%)に605件の副作用(臨床検査値の異常変動を含む)が認められた。主な副作用は、傾眠205例(25.1%)、悪心63例(7.7%)、せん妄及び便秘各45例(各5.5%)、嘔吐28例(3.4%)等であった。心電図QT延長は23例(2.8%)、Torsade de pointesは1例(0.1%)認められた。また呼吸抑制は10例(1.2%)、薬剤離脱症候群は1例(0.1%)認められた
26)(再審査終了時)。
アルミ袋開封後は直射日光、高温、多湿を避けて保存すること。
がん性疼痛の治療に精通した医師によってのみ処方・使用されるとともに、本剤のリスク等についても十分に管理・説明できる医師・医療機関・管理薬剤師のいる薬局のもとでのみ用いられ、それら薬局においては調剤前に当該医師・医療機関を確認した上で調剤がなされるよう、製造販売にあたって必要な措置を講じること。
本剤は厚生労働省告示第107号(平成18年3月6日付)に基づき、投薬は1回14日分を限度とされています。