医療用医薬品 : シアノキット

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医薬品情報


総称名 シアノキット
一般名 ヒドロキソコバラミン
塩化ナトリウム
欧文一般名 Hydroxocobalamin
Sodium Chloride
製剤名 注射用ヒドロキソコバラミン
薬効分類名 点滴専用 急性シアン中毒解毒剤
薬効分類番号 3929
KEGG DRUG
D08749 ヒドロキソコバラミン・生理食塩液
JAPIC 添付文書(PDF)
この情報は KEGG データベースにより提供されています。
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添付文書情報2025年1月 改訂(第4版)


商品情報 3.組成・性状

販売名 欧文商標名 製造会社 YJコード 薬価 規制区分
シアノキット注射用5gセット CYANOKIT for injection 5g Set メルクバイオファーマ 3929408D2021 87992円/瓶 処方箋医薬品注)

4. 効能または効果

シアン及びシアン化合物による中毒

5. 効能または効果に関連する注意

火災煙の吸入による中毒の場合、一酸化炭素等他の有毒物質による中毒の可能性があるが、シアン中毒では本剤の投与を可及的速やかに開始する必要があるため、シアン中毒が疑われる場合には、本剤の投与を開始すること。

6. 用法及び用量

初回投与
通常、成人にはヒドロキソコバラミンとして5g(1バイアル)を日本薬局方生理食塩液200mLに溶解して、15分間以上かけて点滴静注する。
また、小児にはヒドロキソコバラミンとして70mg/kg(ただし、5gを超えない)を、15分間以上かけて点滴静注する。なお、1バイアル(ヒドロキソコバラミンとして5g)を日本薬局方生理食塩液200mLに溶解して必要量を投与する。
追加投与
症状により1回追加投与できる。追加投与する際には、15分間〜2時間かけて点滴静注する。総投与量は成人には10g、小児には140mg/kg(ただし、10gを超えない)を上限とする。

8. 重要な基本的注意

8.1 本剤は、酸素療法の代用にならないので、速やかに酸素療法を行うこと。
8.2 チオ硫酸ナトリウムとの併用による有効性及び安全性は確立していない。[10.214.1.3参照]
8.3 亜硝酸アミルとの併用による有効性及び安全性は確立していない。

9. 特定の背景を有する患者に関する注意

9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 心臓、循環器系機能障害のある患者
循環血液量を増すことから心臓に負担をかけ、症状が悪化するおそれがある。
9.1.2 ビタミンB12(シアノコバラミン)に対し過敏症の既往歴のある患者
治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しない。
9.1.3 本剤の成分(ヒドロキソコバラミン)に対し過敏症の既往歴のある患者
治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しない。
9.2 腎機能障害患者
ヒドロキソコバラミンは主に腎臓から排泄されるため、血中濃度が上昇し、副作用があらわれるおそれがある。また、生理食塩液の投与により、水分、塩化ナトリウムの過剰投与に陥りやすい。
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないことが望ましい。ラット及びウサギにヒドロキソコバラミン75、150又は300mg/kgを投与した胚/胎児毒性試験において、150mg/kg以上で、ラットに吸収胚数の増加、短肢等、ウサギに脳室拡張及び肢の屈曲等の胚/胎児毒性及び催奇形性が認められ、75mg/kg以上で、ラットに体重増加抑制、自発運動低下、ウサギに摂餌量減少等の母体毒性が認められたとの報告がある。なお投与量150mg/kgは、成人における総投与量の10gに相当する。
9.6 授乳婦
治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。本剤のヒト母乳中への移行については知られていない。
9.7 小児等
小児等を対象とした臨床試験は実施していない。小児に対する本剤の投与経験は極めて限られているが、小児に本剤70mg/kgを投与した事例が報告されている1)
9.8 高齢者
患者の状態を観察しながら慎重に投与すること。一般に生理機能が低下していることが多い。

10. 相互作用

10.2 併用注意
チオ硫酸ナトリウム
8.214.1.3参照]
チオ硫酸ナトリウムを同時に投与すると、解毒作用が抑制することが考えられるため、同時に投与しないことチオ硫酸−コバラミン化合物の形成が起こる

11. 副作用

11.1 重大な副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.1.1 アナフィラキシー(頻度不明)
11.1.2 急性腎障害(頻度不明)
急性腎障害、腎尿細管壊死があらわれることがある。
11.2 その他の副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
 症状(頻度不明)
臨床検査リンパ球数減少、着色血漿
心臓障害心室性期外収縮、心拍数増加
神経系障害記憶障害、浮動性めまい
眼障害眼部腫脹、眼刺激、眼の発赤
呼吸器、胸郭及び縦隔障害胸水、呼吸困難、咽喉絞扼感、咽喉乾燥、胸部不快感
胃腸障害腹部不快感、消化不良、下痢、嘔吐、悪心、嚥下障害
腎及び尿路障害着色尿暗赤色(特に投与3日後まで著明で、投与35日後まで持続する場合がある)
皮膚及び皮下組織障害可逆性の皮膚及び粘膜の着色、膿疱性皮疹(数週間持続する場合がある)
血管障害一過性の血圧上昇(通常数時間で回復する)、ほてり、血圧下降
全身障害及び投与局所様態頭痛、注射部位反応、末梢性浮腫
免疫系障害血管神経性浮腫を含むアレルギー反応、皮疹、蕁麻疹、そう痒症
精神障害落ち着きのなさ

12. 臨床検査結果に及ぼす影響

12.1 下記の臨床検査に影響する可能性があるので注意すること。
臨床検査パラメータ血液生化学検査血液学的検査凝固試験
影響なしカルシウム、ナトリウム、カリウム、クロール、尿素、GGT赤血球、ヘマトクリット、MCV、白血球、リンパ球、単球、好酸球、好中球、血小板 
上昇注1)クレアチニン、総ビリルビン注2)、直接ビリルビン注2)、トリグリセリド、コレステロール、総タンパク、グルコース、アルブミン、アルカリフォスファターゼヘモグロビン、MCH、MCHC、好塩基球 
減少注1)ALT、アミラーゼ  
予測不可注3)リン酸塩、尿酸、AST、CK、CKMB、LDH aPTT
PT(Quick一段法又はINR値)
影響の持続時間24時間、ただしビリルビンは最長4日12〜16時間24〜48時間
12.2 本剤はすべての尿の比色法によるパラメータに影響するので、着色尿が認められる限り尿検査には注意すること。

14. 適用上の注意

14.1 薬剤調製時の注意
14.1.1 本剤1バイアル(ヒドロキソコバラミンとして5g)につき日本薬局方生理食塩液200mLを加え、転倒又は穏やかに振り混ぜて溶解する。少なくとも投与開始前30秒間は激しく振り混ぜないこと。
14.1.2 本剤は、以下の薬剤との混合によって不溶性粒子を形成する:ジアゼパム、ドブタミン、ドーパミン、フェンタニル、ニトログリセリン、ペントバルビタール、フェニトインナトリウム、プロポフォール、チオペンタール。したがって、本剤と上記の薬剤を含む他剤を使用する場合は同じ静脈ラインでの同時投与は避けること。
14.1.3 本剤は、以下の薬剤との混合によって、化学的配合変化が認められる:エピネフリン、塩酸リドカイン、アデノシン、アトロピン、ミダゾラム、ケタミン、塩化サクシニルコリン、塩酸アミオダロン、炭酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム及びアスコルビン酸。したがって、本剤と上記の薬剤を含む他剤を使用する場合は同じ静脈ラインでの同時投与は避けること。[8.210.2参照]
14.1.4 血液製剤(全血、濃縮赤血球、濃縮血小板及び/又は新鮮凍結血漿)を本剤と同時に投与する場合には、同じ静脈ラインを使用しないこと。可能ならば、対側四肢からの投与とすること。
14.2 薬剤調製後の注意
調製した溶液は速やかに使用すること。なお、やむを得ず保存を必要とする場合でも、2〜40℃で調製後6時間以内に使用すること。添付の溶解液注入針、輸液セット(22ゲージ翼付注射針付き)及び23ゲージ翼付注射針は再使用しないこと。

15. その他の注意

15.1 臨床使用に基づく情報
15.1.1 肝機能又は腎機能異常がヒドロキソコバラミンの薬物動態に及ぼす影響については明らかではない。
15.1.2 ニトロプルシドナトリウムの過量投与によりシアン中毒を発症することが報告されている。本剤をニトロプルシドナトリウムによるシアン中毒発症時の治療に使用することは可能であるが、シアン中毒に対する予防投与の必要性は不明であり、使用しないこと。
15.1.3 海外において本剤の有効成分であるヒドロキソコバラミンの暗赤色による血液透析装置の停止が報告されている2)

16. 薬物動態

16.1 血中濃度
16.1.1 単回投与
健康成人にヒドロキソコバラミン2.5g(9例)、5g(12例)、7.5g(9例)及び10g(11例)を静脈内単回投与した結果、用量比例性の薬物動態が観察された(図1、2)。ヒドロキソコバラミン5gの投与後の低分子量及び総コバラミン(III)(ヒドロキソコバラミンの測定対象物質)のCmax平均値は、それぞれ113μg eq/mL及び579μg eq/mLであった。同様に、ヒドロキソコバラミン10gの投与後の低分子量及び総コバラミン(III)のCmax平均値は、それぞれ197μg eq/mL及び995μg eq/mLであった。低分子量及び総コバラミン(III)の平均半減期は5gと10gの投与量において約26〜31時間であった3)
図1 血漿中低分子量コバラミン-(III)濃度(平均値)
図2 血漿中総コバラミン-(III)濃度(平均値)
16.1.2 排泄
投与後72時間に尿中に排泄されたコバラミン(III)の平均総量は、5g投与でヒドロキソコバラミンの約60%、10g投与で約50%であった(図3)。全般的に、総尿中排泄量は投与量の60〜70%以上であると算出された。尿中排泄の大半は最初の24時間でみられた3)。赤色尿は静脈内注入の35日後まで認められた4)
図3 総コバラミン-(III)の尿中累積排泄率(%)(平均値)

17. 臨床成績

17.1 有効性及び安全性に関する試験
17.1.1 海外における火災煙被災者を対象として実施された臨床試験成績が報告されている5)
ヒドロキソコバラミン4〜15g(中央値で5g)が69例に投与され、50例(73%)が生存し、19例は死亡した。生存した50例中9例は神経後遺症があった。また、血中シアン濃度が中毒発現量と考えられる39μmol/L以上であった42例中28例(67%)が生存し、血中シアン濃度が致死量と考えられる100μmol/L以上であった19例中11例(58%)が生存した。心肺停止状態にあった15例中2例(13%)が生存した。(参考情報)
17.1.2 海外におけるシアン化物の摂取又は工場における吸入事故に関するレトロスペクティブ調査において、14例中10例が生存し、生存した10例中7例の血中シアン濃度が致死量と考えられる100μmol/Lを超えていたと報告されている6)。(参考情報)

18. 薬効薬理

18.1 作用機序
ヒドロキソコバラミン分子の三価のコバルトイオンに結合している水酸イオンとシアンイオンが置換することにより、シアノコバラミンが形成され、尿中に排泄される7)
18.2 薬理作用
麻酔したイヌにシアン化カリウムが静脈内投与された後、生理食塩液、ヒドロキソコバラミン75又は150mg/kgが7.5分以上かけて静脈内投与された。投与4時間の生存率は、生理食塩液投与群41%、75mg/kg投与群95%及び150mg/kg投与群100%、並びに14日後で、生理食塩液投与群18%、75mg/kg投与群79%及び150mg/kg投与群100%であった8)

19. 有効成分に関する理化学的知見

19.1. ヒドロキソコバラミン

一般的名称 ヒドロキソコバラミン
一般的名称(欧名) Hydroxocobalamin
化学名 Coα-[α-(5,6-Dimethylbenz-1H-imidazol-1-yl)]-Coβ-hydroxocobamide
分子式 C62H89CoN13O15P
分子量 1346.36
物理化学的性状 ヒドロキソコバラミンは暗赤色の結晶又は結晶性の粉末で、においはない。水又はメタノールに溶けやすく、エタノールに溶けにくく、アセトン、エーテル又はクロロホルムにほとんど溶けない。吸湿性である。
理化学知見その他 19.1 ヒドロキソコバラミン注射用5g
KEGG DRUG D01027

19.2. 塩化ナトリウム

一般的名称 塩化ナトリウム
一般的名称(欧名) Sodium Chloride
分子式 NaCl
分子量 58.44
物理化学的性状 無色又は白色の結晶又は結晶性の粉末である。水に溶けやすく、エタノール(99.5)にほとんど溶けない。
理化学知見その他 19.2 日本薬局方 生理食塩液
KEGG DRUG D02056

22. 包装

1製品中

シアノキット注射用5gセット用 ヒドロキソコバラミン注射用5g
1バイアル
シアノキット注射用5gセット用 日本薬局方生理食塩液200mL
1本
シアノキット注射用5gセット用 溶解液注入針
1個
シアノキット注射用5gセット用 輸液セット(22ゲージ)
1セット
シアノキット注射用5gセット用 単回使用一般静脈用翼付針(23ゲージ)
1セット
シアノキット注射用5gセット用
フィルター付エアー針 1個

23. 主要文献

  1. Breton D,et al., Arch Fr Pediatr., 50 (1), 43-5, (1993), (1993 Jan) »PubMed
  2. Sutter M,et al., J Med Toxicol., 6 (2), 165-7, (2010), (2010 Jun) »PubMed
  3. 社内資料:Uhl W,et al.:健康成人における薬物動態
  4. Uhl W,et al., Clin Toxicol(Phila)., 44 (Suppl 1), 17-28, (2006)
  5. Borron SW,et al., Ann Emerg Med., 49 (6), 794-801, (2007), (2007 Jun) »PubMed
  6. Borron SW,et al., Am J Emerg Med., 25 (5), 551-8, (2007), (2007 Jun) »PubMed
  7. 社内資料:Galleman D,et al.:ヒドロキソコバラミンの作用機序
  8. Borron SW,et al., Clin Toxicol(Phila)., 44 (Suppl 1), 5-15, (2006)

24. 文献請求先及び問い合わせ先

文献請求先
メルクバイオファーマ株式会社 メディカル・インフォメーション
東京都港区麻布台一丁目3番1号
電話:フリーダイヤル 0120-870-088
製品情報問い合わせ先
メルクバイオファーマ株式会社 メディカル・インフォメーション
東京都港区麻布台一丁目3番1号
電話:フリーダイヤル 0120-870-088

26. 製造販売業者等

26.1 製造販売元
メルクバイオファーマ株式会社
東京都港区麻布台一丁目3番1号

[ KEGG | KEGG DRUG | KEGG MEDICUS ] 2025/09/17 版