2.1 出血している患者(頭蓋内出血)[1.参照]
2.2 頭蓋内出血の可能性のある患者(出血した動脈瘤に対する十分な止血処置を術中に施すことができなかった患者)[1.参照]
2.3 低血圧の患者[本剤の投与により低血圧があらわれることがある。]
くも膜下出血術後の脳血管攣縮およびこれに伴う脳虚血症状の改善
通常、成人には、塩酸ファスジルとして1回30mgを50〜100mLの電解質液または糖液で希釈し、1日2〜3回、約30分間かけて点滴静注する。
本剤の投与は、くも膜下出血術後早期に開始し、2週間投与することが望ましい。
本剤の投与は、2週間を目安とし、漫然と投与しないこと。
8.1 本剤の投与に際しては、臨床症状及びコンピューター断層撮影による観察を十分に行い、頭蓋内出血が認められた場合には直ちに投与を中止し、適切な処置を行うこと。[1.、
9.1.1、
11.1.1参照]
8.2 本剤の投与により低血圧があらわれることがあるので、血圧の変動に注意し、投与速度に注意するなど慎重に投与すること。
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 術前から糖尿病を合併している患者、術中所見で主幹動脈に動脈硬化がみられた患者
9.1.2 重篤な意識障害のある患者
9.1.3 くも膜下出血に重症の脳血管障害(モヤモヤ病、巨大脳動脈瘤など)を合併している患者
9.2 腎機能障害患者
低血圧が観察された場合には減量(例えば1回10mg)すること。排泄が遅延して、血中濃度が持続する可能性があり、低血圧が認められることがある。
9.3 肝機能障害患者
代謝が遅延して、血中濃度が上昇し、作用が強くあらわれる可能性がある。
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。24時間持続静脈内投与によりラットに12日間投与した器官形成期投与試験で、奇形(腹部閉鎖障害)を有する仔がみられたとの報告がある。また、24時間持続静脈内投与によりウサギに14日間投与した器官形成期投与試験で、奇形(頭部神経管障害、腹部閉鎖障害)を有する仔が認められたとの報告がある。
9.6 授乳婦
治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。動物実験(ラット)で本剤の乳汁移行が認められている。
9.7 小児等
9.8 高齢者
腎機能が低下している可能性があるので、減量する(例えば1回10mg)など注意すること。一般に高齢者では生理機能が低下している。なお、臨床試験及び市販後調査では、65歳以上の高齢者での副作用発現率は11.96%(1,798例中215例)であった。
9.8.1 70歳以上の高齢者
機能予後の改善がみられない可能性があり、有効性が確立されていない。
11.1 重大な副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.1.2 消化管出血、肺出血、鼻出血、皮下出血(各0.27%)
11.1.3 ショック(0.02%)
11.1.4 麻痺性イレウス(0.04%)
観察を十分に行い、著しい便秘、腹部膨満感等の症状があらわれた場合には、適切な処置を行うこと。
注)発現頻度は使用成績調査を含む。
11.2 その他の副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
| | 5%以上 | 0.1〜5%未満 | 0.1%未満 |
| 循環器 | | 低血圧 | 顔面潮紅 |
| 血液 | | 貧血、白血球減少、血小板減少 | |
| 肝臓 | 肝機能異常(AST、ALT、ALP、LDHの上昇等) | | 黄疸 |
| 泌尿器 | | 腎機能異常(BUN、クレアチニンの上昇等)、多尿 | 排尿困難 |
| 過敏症 | | 発疹等の過敏症状 | |
| 消化器 | | | 膨満感、嘔気、嘔吐 |
| その他 | | 発熱 | 頭痛、意識レベル低下、呼吸抑制 |
14.1 薬剤投与時の注意
14.1.1 本剤は点滴静注にのみ使用すること。
14.1.2 ウサギで大槽内投与により痙攣が発現したとの報告があるので、髄腔内には投与しないこと。
15.2 非臨床試験に基づく情報
ラット及びサルに静脈内投与した実験で腎障害が認められたとの報告がある。
18.1 作用機序
蛋白リン酸化酵素であるRhoキナーゼの阻害作用によるものと考えられている。Rhoキナーゼは、ミオシンホスファターゼの不活化(リン酸化)を促進することで、それに続くミオシン軽鎖の不活化(脱リン酸化)を阻害する。Rhoキナーゼは、血管の収縮、炎症性細胞の活性化、血管内皮細胞の損傷など、くも膜下出血に伴う脳血管攣縮及び脳虚血障害発生の原因となっている生体内での諸反応に関与している。
18.1.1 ファスジルは、Rhoキナーゼを阻害することで、ミオシンホスファターゼの不活化(リン酸化)を阻害し、それに続くミオシン軽鎖の不活化(脱リン酸化)を促進することで、ニワトリ及びウサギの摘出平滑筋、さらに平滑筋細胞の弛緩作用を示した
7)8)9)(
in vitro)。
18.1.2 ヒト好中球及び単球の遊走を抑制した
10)11)(
in vitro)。
18.1.3 ヒト好中球の活性酸素産生を抑制した
12)(
in vitro)。
18.2 脳血管攣縮の予防及び緩解作用
イヌ遅発性脳血管攣縮モデルにおいて、攣縮を予防
13)及び緩解
14)した。
18.3 脳循環改善作用
18.3.1 イヌ遅発性脳血管攣縮モデルにおいて、大脳皮質血流を改善した
15)。
18.3.2 ラット脳虚血モデルにおいて、血液粘度を改善した
16)。
18.3.3 ヒト血管内皮細胞において、低酸素負荷による内皮細胞障害を改善した
17)(
in vitro)。
18.4 好中球浸潤抑制作用
イヌ遅発性脳血管攣縮モデルにおいて、くも膜下腔への好中球浸潤を抑制した
18)。
18.5 脳梗塞巣発生抑制作用
18.5.1 スナネズミ脳虚血モデルにおいて、遅発性神経細胞死を抑制した
19)。
18.5.2 ラット脳虚血モデルにおいて、脳浮腫及び脳梗塞巣の発生を抑制し、神経症状を改善した
20)。