2.1 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2.2 右心不全の急性増悪時の患者[本剤の血管拡張作用により症状を悪化させるおそれがあるので、カテコールアミンの投与等の処置を行い、状態が安定するまでは投与しないこと。]
2.3 重篤な左心機能障害を有する患者[本剤の血管拡張作用により症状を悪化させるおそれがある。]
2.4 重篤な低血圧患者[本剤の血管拡張作用により症状を悪化させるおそれがある。][
9.1.4参照]
5.1 本剤の使用にあたっては、最新の治療ガイドラインを参考に投与の要否を検討すること。
5.2 先天性短絡性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症については、Eisenmenger症候群あるいは術後に肺高血圧の残存している患者にのみ使用すること。
5.3 本剤は経口肺血管拡張薬で十分な治療効果が得られない場合に適用を考慮すること。
5.4 特発性肺動脈性肺高血圧症、遺伝性肺動脈性肺高血圧症及び結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症以外の肺動脈性肺高血圧症における有効性及び安全性は確立していない。
通常、成人にはトレプロスチニルとして1.25ng/kg/分の投与速度で持続静脈内投与又は持続皮下投与を開始する。この初期投与速度が本剤の全身性の副作用により耐えられない場合は、投与速度を0.625ng/kg/分に減量する。
患者の状態を十分に観察しながら、原則、最初の4週間は、1週間あたり最大1.25ng/kg/分で増量し、その後は臨床症状に応じて1週間あたり最大2.5ng/kg/分で増量し、最適投与速度を決定する。1週間あたり1.25又は2.5ng/kg/分を超えて増量する場合、患者の忍容性を十分確認しながら慎重に投与する。最適投与速度の決定にあたっては、本剤の副作用と肺高血圧症状の改善を指標とする。
7.1 投与開始時及び投与速度調節の際は患者の症状をよく観察し、心拍数、血圧等血行動態の変化による副作用の発現に留意し、異常が認められた場合には本剤の減量など適切な処置を行うこと。
7.2 肺高血圧症状が急激に増悪するおそれがあるので、突然の投与中止又は急激な減量を避けること。[1.参照]
7.3 本剤の減量中又は投与中止後に症状の悪化又は再発が認められることがあるので、患者の状態に注意し、このような場合には、適宜増量又は再投与する等の適切な処置を行うこと。
7.4 本剤の消失半減期は0.8〜4.6時間であるため、長時間投与を中止した後再開する場合には投与速度を再設定すること。
7.5 本剤の投与経路を変更する場合は、原則、同一用量で変更し、変更後は患者の症状をよく観察すること。
7.6 肝障害のある患者において、0.625ng/kg/分から投与を開始し、慎重に増量すること。[
9.3、
16.6.2参照]
7.7 国内外において290ng/kg/分を超えた投与速度の経験は少ないため、290ng/kg/分を超えて投与する場合は患者の状態に十分注意すること。
8.1 本剤の投与は、病状の変化への適切な対応が重要であるため、緊急時に十分な対応が可能な医療施設において肺高血圧症及び心不全の治療に十分な知識と経験をもつ医師のもとで、本剤の投与が適切と判断される症例にのみ行うこと。
8.2 自己投与に移行する前に、自己投与方法(薬液調製方法、無菌的操作方法、精密持続点滴装置の操作方法等)について予め患者に十分教育を行い、患者自らが適切に使用可能と医師が判断した患者に対してのみ投与を開始すること。
8.3 持続皮下投与にあたっては、以下の点に注意すること。[
11.1.6参照]
・神経走行部位、発赤、硬結、挫傷、線条、瘢痕、浮腫、結節、ベルトライン等の部位は避けること。
・注射針刺入直後に疼痛を訴えた場合は、直ちに注射針を抜き、部位を変えて刺入すること。
・注射部位は腹部、臀部、上腕、大腿等広範囲に求め、順序良く移動し、同一部位への短期間内の繰り返し注射を避けること。なお、国内臨床試験では腹部が主な投与部位とされた。
8.4 持続静脈内投与にあたっては、敗血症などの重篤な感染症があらわれることがあるので、以下の点に注意すること。[
11.1.5参照]
・薬液の調製、薬液の交換及び輸液セットの交換は、無菌的に行うこと。
・注射部位は常に清潔に保つこと。注射部位を保護するドレッシング材等を交換する際は、注射部位の観察を行うこと。
・注射部位の異常や原因不明の発熱が認められた場合は、医師又はその他医療従事者に連絡し、指示を受けるよう患者に指導すること。
・中心静脈カテーテルを介した感染が起こった場合など、臨床的に必要と判断される場合は一時的に末梢静脈内投与を行うことを考慮すること。血栓性静脈炎のリスクがあるため、なるべく太い静脈を選び、長期間の末梢静脈内投与は避けること。
8.5 本剤は血管拡張作用を有するため、本剤の投与に際しては、血管拡張作用により患者が有害な影響を受ける状態(降圧剤投与中、安静時低血圧、血液量減少、重度の左室流出路閉塞、自律神経機能障害等)にあるのかを十分検討すること。
8.6 血小板減少、好中球減少があらわれることがあるので、定期的に臨床検査を行うなど観察を十分に行うこと。[
11.1.3参照]
8.7 甲状腺機能亢進症があらわれることがあるので、必要に応じて甲状腺機能検査を実施するなど観察を十分に行うこと。[
11.1.4参照]
8.8 臨床試験において、めまい等が認められているので、高所作業、自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には注意させること。
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 肺静脈閉塞性疾患を有する患者
投与しないことが望ましい。本剤の血管拡張作用により、心血管系の状態を著しく悪化させるおそれがある。
9.1.2 高度に肺血管抵抗が上昇している患者
肺血管抵抗が高度に上昇した病態を示す肺高血圧症の末期と考えられる患者では、心機能も著しく低下している。
9.1.3 出血傾向のある患者
本剤の血小板凝集抑制作用により、出血を助長するおそれがある。
9.1.4 低血圧の患者
本剤の血管拡張作用により、血圧をさらに低下させるおそれがある。[
2.4参照]
9.3 肝機能障害患者
本剤の血中濃度が上昇する。また、重度の肝障害(Child-Pugh分類C)のある患者を対象として有効性及び安全性を評価した臨床試験は実施していない。[
7.6、
16.6.2参照]
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。動物実験(ウサギ)において骨格変異(腰肋骨)を有する胎児の出現率の増加がヒトでの推定最高全身曝露量(推定最高臨床用量525ng/kg/分投与時)の0.1倍で認められている。
9.6 授乳婦
治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。類薬の動物試験(ラット)で乳汁中へ移行することが報告されている。
9.7 小児等
小児等を対象とした有効性及び安全性を指標とした臨床試験は実施していない。
9.8 高齢者
11.1 重大な副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.1.1 血圧低下(頻度不明)、失神(頻度不明)
11.1.2 出血(頻度不明)
消化管出血、鼻出血、皮下注射部位又はカテーテル留置部位の出血等があらわれることがある。
11.1.3 血小板減少(10.5%)
、好中球減少(2.6%)[
8.6参照]
11.1.4 甲状腺機能亢進症(頻度不明)[
8.7参照]
11.1.5 血流感染(21.7%)
持続静脈内投与時に中心静脈カテーテル留置に伴う合併症として重篤な血流感染があらわれることがある。[
8.4参照]
11.1.6 注射部位の局所反応(100%注1))
持続皮下投与時に注射部位の局所反応(疼痛、紅斑、腫脹、熱感等)が高頻度にあらわれることがある。特に持続皮下投与の継続が困難な疼痛があらわれることがあるため、これらの症状があらわれた場合には、適切な処置(NSAIDs内服、クーリング/ヒーティング等)を行うこと。持続皮下投与の継続が困難な場合、本剤の投与中止又は持続静脈内投与への変更を検討すること。[
8.3参照]
注1)重篤性にかかわらず、注射部位の局所反応すべての頻度を算出した。
11.2 その他の副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
| 10%以上 | 10%未満 | 頻度不明 |
出血傾向 | | 不正子宮出血、結膜出血、鼻出血、紫斑 | 喀血、肺出血 |
循環器 | 潮紅、ほてり | 動悸、低血圧 | |
消化器 | 下痢、悪心 | 嘔吐、上腹部痛 | 軟便、腹痛 |
筋骨格 | 四肢痛、顎痛 | 筋骨格痛、筋肉痛 | |
精神神経系 | 頭痛、不眠症 | 浮動性めまい、異常感 | 頭部不快感 |
皮膚 | | 発疹、そう痒症 | |
投与部位 | 注射部位疼痛、注射部位紅斑、注射部位腫脹、注射部位熱感、注射部位硬結、注射部位そう痒感 | 注射部位出血、注射部位変色、注射部位血管炎 | 蜂巣炎注2) |
その他 | 浮腫、倦怠感 | 血管障害(血管痛)、発熱 | |
13.1 症状
本剤の過量投与後には過度の薬理学的作用により、潮紅、頭痛、低血圧、悪心、嘔吐、下痢等が発現する。過量投与は、精密持続点滴装置の誤操作あるいは投与流量を変更せずに本剤注射液の濃度を変更した場合等に偶発的に生じる可能性がある。
海外において小児患者1例で、中心静脈カテーテルから偶発的に本剤7.5mgが投与された。症状として潮紅、頭痛、悪心、嘔吐、低血圧、並びに数分間持続した意識消失を伴う発作のような行動があった。患者は本剤の休薬及び酸素吸入により回復した。
13.2 処置
症状が消失するまで、直ちに本剤を減量又は投与を中止すること。減量又は投与中止の際は、肺高血圧症状の悪化又は再発を避けるため可能な限り徐々に投与速度を落とすこと。投与再開にあたっては、医師の監視の下で慎重に行い、症状の再発に注意すること。なお、トレプロスチニルは透析では除去されない。[
16.6.1参照]
14.1 薬剤調製時の注意
14.1.1 本剤の変色又はバイアル内に微粒子が認められるものは使用しないこと。
14.1.2 配合変化試験を実施していないので、他の薬剤との混合は避けること。
14.1.3 持続静脈内投与の場合、日局注射用水又は日局生理食塩液で希釈して投与する。持続皮下投与の場合、希釈せずそのまま投与する。
14.1.4 本剤を希釈した場合、40℃では48時間以内に投与を終了すること。また、本剤を希釈せずに薬液容器に入れた場合、40℃では72時間以内に投与を終了すること。
14.1.5 薬液交換時、使用後の薬液容器内の残液は再使用しないこと。
14.1.6 穿刺後のバイアルは30日以内に使用すること。
14.2 薬剤投与時の注意
14.2.1 本剤は持続静脈内投与又は持続皮下投与にのみ使用すること。
14.2.2 精密持続点滴装置は以下の条件を満たすものを使用すること。
・閉塞/投与不能、残量、電池の消耗、プログラムエラー及びモーターの機能故障のアラームがあること。
・送達精度は±6%より優れること。
・陽圧駆動であること。
・薬液容器は塩化ビニル、ポリプロピレンあるいはガラス製であること。
・約2μL/hr刻みの調節が可能であること(皮下投与のみ)。
14.2.3 精密持続点滴装置の誤操作により、本剤の投与量が過多もしくは不足となる可能性があるので、本剤の投与前に精密持続点滴装置の操作を十分習得し、流量の設定には十分注意すること。また、精密持続点滴装置の故障や誤作動等により、本剤の投与量が過多もしくは不足となる可能性があるので、精密持続点滴装置は常に予備を用意しておくこと。(投与量の過多又は不足により、本剤の血管拡張作用に関連する副作用が発現したり、肺高血圧症状の悪化又は再発を来すおそれがある。)
14.2.4 持続静脈内投与方法
本剤は日局注射用水又は日局生理食塩液で希釈し、外科的に留置された中心静脈カテーテルを介し、フィルターを接続した精密持続点滴装置(シリンジポンプ又は輸液ポンプ)を用いて持続静脈内投与する。まず投与流量を決定し、決定した投与流量(mL/hr)、投与速度(ng/kg/分)及び患者の体重(kg)から、本剤の希釈濃度(mg/mL)を算出する。投与流量の決定にあたっては、精密持続点滴装置の薬液容器の交換まで最大48時間であるため、投与期間が48時間以内になるよう選択する。本剤の希釈濃度は0.004mg/mL以上とすること。以下に計算方法及び参考計算例を示す。
・持続静脈内投与の計算方法
ステップ1:本剤希釈濃度の計算
本剤希釈濃度(mg/mL)=投与速度(ng/kg/分)×体重(kg)×0.00006*/投与流量(mL/hr)
*換算係数0.00006=60分/hr×0.000001mg/ng
ステップ2:本剤注射液量の計算
算出された本剤の希釈濃度の薬液を、使用する薬液容器サイズに合わせて調製するために必要な本剤注射液の量は、以下の式より算出する。
本剤注射液量(mL)=本剤希釈濃度(mg/mL)/本剤注射液濃度(mg/mL)×薬液容器サイズ(本剤の希釈溶液量:mL)
算出された量の本剤注射液を、希釈液(日局注射用水又は日局生理食塩液)とともに薬液容器に加え、必要量に調製する。
・参考計算例1
ステップ1
体重60kgの患者に対し、投与速度5ng/kg/分、投与流量1mL/hrで、薬液容器50mLを使用して投与する場合、本剤の希釈濃度は以下のように計算される。
本剤希釈濃度(mg/mL)=5ng/kg/分×60kg×0.00006/1mL/hr=0.018mg/mL
ステップ2
本剤の希釈濃度0.018mg/mLで、薬液を50mLに調製するために必要な本剤の注射液量は、20mgバイアル(本剤注射液濃度1mg/mL)を使用した場合、以下のように計算される。
本剤注射液量(mL)=0.018mg/mL/1mg/mL×50mL=0.9mL
・参考計算例2
ステップ1
体重75kgの患者に対し、投与速度30ng/kg/分、投与流量2mL/hrで、薬液容器100mLを使用して投与する場合、本剤の希釈濃度は以下のように計算される。
本剤希釈濃度(mg/mL)=30ng/kg/分×75kg×0.00006/2mL/hr=0.0675mg/mL
ステップ2
本剤の希釈濃度0.0675mg/mLで、薬液を100mLに調製するために必要な本剤の注射液量は、50mgバイアル(本剤注射液濃度2.5mg/mL)を使用した場合、以下のように計算される。
本剤注射液量(mL)=0.0675mg/mL/2.5mg/mL×100mL=2.7mL
14.2.5 持続皮下投与方法
本剤は、精密持続点滴装置(注射筒輸液ポンプ)を使用し、自己挿入型皮下カテーテルを経由して持続皮下投与する。本剤は希釈せずに、投与速度(ng/kg/分)、体重(kg)、本剤注射液の濃度(mg/mL)に基づき計算された投与流量(μL/hr)で投与する。以下に計算方法及び参考計算例を示す。
・持続皮下投与の計算方法
投与流量(μL/hr)=投与速度(ng/kg/分)×体重(kg)×0.06*/本剤注射液濃度(mg/mL)
*換算係数0.06=60分/hr×0.000001mg/ng×1000μL/mL
・参考計算例1
体重50kgの患者に対し、20mgバイアル(本剤注射液濃度1mg/mL)を使用し、投与速度1.25ng/kg/分で投与を行う場合、以下のように計算される。
投与流量(μL/hr)=1.25ng/kg/分×50kg×0.06/1mg/mL=4μL/hr
・参考計算例2
体重60kgの患者に対し、100mgバイアル(本剤注射液濃度5mg/mL)を使用し、投与速度15ng/kg/分で投与を行う場合、以下のように計算される。
投与流量(μL/hr)=15ng/kg/分×60kg×0.06/5mg/mL=11μL/hr
14.2.6 カテーテルの閉塞により、本剤の投与量が不足し、肺高血圧症状の悪化又は再発を来すおそれがあるので、カテーテルの閉塞が疑われた場合(精密持続点滴装置のアラームが作動、薬液容器内の残量が通常より多い等)には、至急適切な処置を行うこと。
16.1 血中濃度
健康成人24例に本剤を持続皮下投与又は持続静脈内投与(2.5、5、10又は15ng/kg/分、150分間)したときの薬物動態パラメータ(Cmax、Css、tmax、AUC及びt
1/2)は、以下のとおりであった。皮下投与及び静脈内投与ともにCmax及びAUCは投与量(投与速度)にほぼ比例して増加した
1)。
健康成人に150分間持続皮下投与したときの血漿中濃度推移
健康成人に150分間持続静脈内投与したときの血漿中濃度推移
健康成人に150分間持続皮下投与又は持続静脈内投与したときの薬物動態パラメータ注1)
投与経路 | 投与速度(ng/kg/分) | n | Cmax(ng/mL) | Css注2)(ng/mL) | tmax(hr) | AUC0-∞(ng・hr/mL) | t1/2注3)(hr) |
皮下 | 2.5 | 6 | 0.29±0.06 | 0.27±0.06 | 2.4±0.3 | 0.67±0.15 | 0.53±0.16 |
5 | 6 | 0.57±0.07 | 0.51±0.06 | 2.6±0.0 | 1.26±0.15 | 0.61±0.18 |
10 | 6 | 0.95±0.13 | 0.94±0.09 | 2.5±0.2 | 2.35±0.22 | 0.82±0.15 |
15 | 4 | 1.25±0.13 | 1.15±0.11 | 2.5±0.0 | 2.89±0.27 | 0.82±0.21 |
静脈内 | 2.5 | 6 | 0.24±0.04 | 0.22±0.04 | 2.1±0.6 | 0.54±0.09 | 0.14±0.04 |
5 | 6 | 0.54±0.03 | 0.48±0.04 | 1.4±1.0 | 1.19±0.11 | 0.29±0.10 |
10 | 6 | 0.93±0.06 | 0.87±0.06 | 2.3±0.3 | 2.18±0.16 | 0.52±0.16 |
15 | 5 | 1.30±0.20 | 1.25±0.23 | 1.8±0.6 | 3.12±0.57 | 0.79±0.27 |
WHO機能分類クラスII〜IVの肺動脈性肺高血圧症患者38例に本剤を持続皮下投与又は持続静脈内投与したときの定常状態における血漿中濃度は、皮下投与が定量下限未満(<0.025)〜10.944ng/mL(投与速度の範囲:1.250〜81.942ng/kg/分)、静脈内投与が0.480〜24.861ng/mL(投与速度の範囲:3.125〜161.000ng/kg/分)であった。各被験者の血漿中濃度は概ね投与速度に比例して増加した
1)。
肺動脈性肺高血圧症患者に持続皮下投与又は持続静脈内投与したときの定常状態における血漿中濃度
16.2 吸収
16.2.1 バイオアベイラビリティ
健康成人24例に本剤を持続皮下投与(2.5、5、10又は15ng/kg/分、150分間)したときの生物学的利用率は、99〜124%であった
1)。
健康成人51例に本剤を持続皮下投与又は持続静脈内投与(10ng/kg/分、72時間)したときの定常状態(投与開始から48〜72時間)におけるCmax及びAUCは、生物学的に同等であることが確認された
2)(外国人データ)。
16.3 分布
16.3.1 分布容積
健康成人24例に本剤を持続皮下投与又は持続静脈内投与(15ng/kg/分、150分間)したときの消失相の分布容積(Vz及びVz/F)は、皮下投与では926mL/kg、静脈内投与では815mL/kgであった
1)。
16.3.2 血漿蛋白結合率
In vitro試験において、トレプロスチニルのヒト血漿蛋白結合率は、96.1〜96.3%(平衡透析法)、91.0%(限外ろ過法)であり、結合率に濃度依存性は認められなかった
3)。
16.4 代謝
In vitro試験において、トレプロスチニルは主にCYP2C8(一部CYP2C9)により代謝されることが示唆された。トレプロスチニルは各種CYP分子種(CYP1A2、2A6、2C8、2C9、2C19、2D6、2E1、3A及び3A4)に対して顕著な阻害は示さなかった。また、ヒト肝細胞を用いた試験において、CYP1A2、2B6、2C8、2C9、2C19及び3A4の顕著な誘導は認められなかった
4)。[
10.参照]
16.5 排泄
健康成人24例に本剤を持続皮下投与又は持続静脈内投与(2.5、5、10又は15ng/kg/分、150分間)したとき、投与開始後48時間までに、未変化体及び未変化体のグルクロナイドとして、皮下投与ではそれぞれ投与量の5.4〜6.8%及び11.2〜15.0%、静脈内投与ではそれぞれ投与量の4.5〜6.1%及び11.0〜13.5%が尿中に排泄された
1)。
健康成人6例に
14Cで標識した本剤を持続皮下投与(15ng/kg/分、8時間)したとき、投与開始後224時間までに、投与放射能の78.6%が尿中に、13.4%が糞中に排泄された。尿中には、未変化体として投与放射能の3.7%が排泄され、5種の代謝物(3種のトレプロスチニル3-ヒドロキシオクチル側鎖の酸化体、未変化体のグルクロナイド、1種の構造未同定代謝物)が、それぞれ投与放射能の10.2〜15.5%排泄された
5)(外国人データ)。
16.6 特定の背景を有する患者
16.6.1 腎機能障害患者
透析を必要とする重度の腎機能障害患者8例にトレプロスチニルの経口剤1mgを透析前及び透析後に単回投与した結果、健康成人と比べてトレプロスチニルの薬物動態に影響は認められなかった
6)(透析前投与時のAUC:39.1%低下、Cmax:28.3%低下、透析後投与時のAUC:22.9%低下、Cmax:6.7%上昇)(外国人データ)。[
13.2参照]
16.6.2 肝機能障害患者
軽度又は中等度(Child-Pugh分類A又はB)の肝機能障害を有する門脈肺高血圧症患者9例に本剤を持続皮下投与(10ng/kg/分、150分間)したとき、軽度(5例)及び中等度(4例)の肝機能障害患者におけるCmax及びAUCは、健康成人に比べて、軽度肝機能障害患者がそれぞれ127%及び161%、中等度肝機能障害患者がそれぞれ340%及び412%上昇した
7)(外国人データ)。[
7.6、
9.3参照]
16.7 薬物相互作用
16.7.1 本剤を用いた試験の成績
(1)アセトアミノフェン
健康成人26例にアセトアミノフェン1000mgを6時間ごとに7回反復経口投与し、5回目の投与の後、本剤を15ng/kg/分で6時間併用持続皮下投与したとき、本剤の薬物動態に影響は認められなかった
8)(外国人データ)。
(2)ワルファリン
健康成人15例に本剤を5ng/kg/分(1日目)及び10ng/kg/分(2〜9日目)で持続皮下投与し、3日目にワルファリン25mgを併用経口投与したとき、血清中
R-ワルファリン及び
S-ワルファリンの薬物動態に影響は認められなかった。また、ワルファリンの抗凝固作用(プロトロンビン時間の国際標準比(INR)値)に影響は認められなかった
9)(外国人データ)。[
10.2参照]
16.7.2 本剤の有効成分であるトレプロスチニルの経口剤を用いた海外臨床試験の成績
(1)ボセンタン
健康成人23例にトレプロスチニルの経口剤1mgを1日2回とボセンタン125mgを1日2回、4.5日間反復併用経口投与したとき、トレプロスチニル及びボセンタンの薬物動態に影響は認められなかった
10)(外国人データ)。
(2)シルデナフィル
健康成人18例にトレプロスチニルの経口剤1mgを1日2回とシルデナフィル20mgを1日3回、4.5日間反復併用経口投与したとき、トレプロスチニル及びシルデナフィルの薬物動態に影響は認められなかった
11)(外国人データ)。
(3)リファンピシン
健康成人20例にトレプロスチニルの経口剤1mgを1日目(単独投与)及び11日目(併用投与)に経口投与し、リファンピシン600mgを3日目から12日目に反復経口投与したとき、11日目のトレプロスチニルのCmax及びAUCはそれぞれ16.6%及び21.7%低下した
12)(外国人データ)。[
10.2参照]
(4)ゲムフィブロジル
健康成人20例にゲムフィブロジル(国内未承認)600mgを1日2回、4日間反復経口投与し、3日目にトレプロスチニルの経口剤1mgを併用経口投与したとき、トレプロスチニルのCmax及びAUCはそれぞれ96.4%及び91.6%上昇した
13)(外国人データ)。[
10.2参照]
(5)フルコナゾール
健康成人20例にフルコナゾールを7日間反復経口投与(1日目400mg、引き続き200mgを6日間)し、6日目にトレプロスチニルの経口剤1mgを併用経口投与したとき、AUCがやや低下したものの(14.6%低下)、トレプロスチニルの薬物動態に顕著な影響は認められなかった
13)(外国人データ)。
17.1 有効性及び安全性に関する試験
17.1.1 国内第II/III相試験(持続静脈内投与試験)
特発性又は遺伝性肺動脈性肺高血圧症及び結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症患者5例を対象とした非盲検非対照臨床試験において本剤を持続静脈内投与した。投与1、6、12週時の投与速度(中央値、範囲)はそれぞれ16.0(4.6-20.0、n=5)、80.0(5.0-99.0、n=5)、120.0(110.0-161.0、n=4)ng/kg/分であった。肺血管抵抗係数及び平均肺動脈圧の低下など心肺血行動態の改善が認められ、運動耐容能の評価である6分間歩行距離の改善が認められた。また、5例中4例で、肺血管抵抗係数及び6分間歩行距離が共に改善した。
副作用発現頻度は、100%(5/5例)であった。主な副作用は、頭痛、ほてり、下痢、四肢痛、顎痛及び倦怠感各80.0%(4/5例)であった
14)。
持続静脈内投与試験における主要評価項目の変化
主要評価項目 | 開始時 | 変化量(12週時) |
6分間歩行距離(m) | 350.0[240.0-375.0] (n=5) | 72.0[30.0-75.0] (n=5) |
肺血管抵抗係数(mmHg・min・m2/L) | 20.2[18.1-35.8] (n=5) | −1.2[−7.4-−1.2] (n=5) |
17.1.2 国内第II/III相試験(持続皮下投与又は持続静脈内投与試験)
特発性又は遺伝性肺動脈性肺高血圧症及び結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症患者を対象とした非盲検非対照臨床試験において本剤を持続皮下又は持続静脈内投与した。エポプロステノール未使用の集団15例において、投与1、6、12週時の投与速度(中央値、範囲)はそれぞれ1.25(1.25-1.25、n=15)、5.0(1.25-10.0、n=13)、10.3(1.25-20.0、n=10)ng/kg/分であった。運動耐容能の評価である6分間歩行距離の延長が認められたが、心係数、肺血管抵抗係数、平均肺動脈圧など心肺血行動態の改善は認められなかった。
副作用発現頻度は、100%(15/15例)であった。主な副作用は、注射部位の局所反応(紅斑、疼痛、腫脹、熱感、硬結、そう痒症等)86.7%(13/15例)、ほてり40.0%(6/15例)、頭痛及び下痢各33.3%(5/15例)、悪心26.7%(4/15例)であった。投与経路別では、皮下投与時で100%(13/13例)、静脈内投与時で100%(4/4例)に副作用が認められた。主な副作用は、皮下投与時で注射部位の局所反応(紅斑、疼痛、腫脹、熱感、硬結、そう痒症等)100%(13/13例)、静脈内投与時で頭痛及びほてり各75.0%(3/4例)であった(集計は副作用発現時の投与経路別とした)。
なお、皮下投与で開始した症例12例中、注射部位の局所反応により、6例が投与を中止し1例が静脈内投与に切り替えた。また、2例が死亡(不整脈及び気胸)、1例が効果不十分により投与を中止した。静脈内投与で開始した症例3例中1例が気胸及び皮下血腫により皮下投与に切り替えたのち注射部位の局所反応により静脈内投与に切り替えた
15)。
持続皮下投与又は持続静脈内投与試験における主要評価項目の変化
主要評価項目 | 開始時 | 変化量(12週時) |
6分間歩行距離(m) | 370.0[225.0-420.0] (n=15) | 45.0[12.0-75.0] (n=13) |
心係数(L/min/m2) | 2.96[2.17-4.04] (n=15) | −0.14[−0.28-0.46] (n=9) |
平均肺動脈圧(mmHg) | 48.0[38-67] (n=15) | 0.5[−3-10] (n=10) |
肺血管抵抗係数(mmHg・min・m2/L) | 14.3[10.9-20.5] (n=15) | 0.7[0.0-2.2] (n=9) |
17.1.3 海外第III相試験
肺動脈性肺高血圧症患者(469例)を対象とした無作為割付二重盲検プラセボ対照多国間多施設共同並行群間比較試験(2試験)において、本剤を12週間持続皮下投与した。投与1、6、12週時の投与速度(中央値、範囲)はそれぞれ2.3(0.0-2.5、n=233)、5.5(0.0-12.5、n=215)、8.2(0.0-22.5、n=202)ng/kg/分であった。
本剤投与群はプラセボ群に比較して、心係数及び混合静脈血酸素飽和度は有意に増加し、平均右心房圧、平均肺動脈圧、肺血管抵抗係数及び体血管抵抗係数は有意に低下した。また、プラセボ群に比較して、本剤投与群において、運動耐容能、修正ボルグスケール、呼吸困難−疲労度評定及び身体的側面QOLに有意な改善が認められた
16)。
副作用発現頻度は、本剤投与群で96.6%(228/236例)、プラセボ投与群で66.1%(154/233例)であった。本剤投与群の主な副作用は、注入部位疼痛84.7%(200/236例)、注入部位反応83.1%(196/236例)、頭痛23.3%(55/236例)、下痢21.6%(51/236例)、注入部位出血/挫傷21.2%(50/236例)、悪心18.6%(44/236例)、顎痛12.7%(30/236例)、発疹11.4%(27/236例)であった。
海外第III相試験における評価項目の変化
評価項目 | 投与群 | 開始時 | 変化量(12週時) |
6分間歩行距離(m) | トレプロスチニル | 346.2[265.6-395.0] (n=232)注) | 10.0[−24.5-47.5] (n=232)注) |
プラセボ | 341.5[272.0-396.7] (n=236) | 0.0[−44.5-32.5] (n=236) |
肺血管抵抗係数(mmHg・min・m2/L) | トレプロスチニル | 23.5[16.5-33.2] (n=204) | −2.5[−6.6-0.8] (n=163) |
プラセボ | 23.0[17.1-30.7] (n=216) | 0.2[−3.5-5.2] (n=187) |
18.1 作用機序
プロスタサイクリンと同様に、トレプロスチニルは、血管拡張作用及び血小板凝集抑制作用により、肺動脈の収縮及び血栓形成を抑制し、肺動脈圧及び肺血管抵抗を低下させることで、肺動脈性肺高血圧症に対する有効性を示すと考えられる。
18.2 肺高血圧症モデルにおける有効性
18.2.1 麻酔ネコに対してトレプロスチニルを持続静脈内投与した結果、低酸素負荷による肺動脈圧及び肺血管抵抗の上昇を抑制した
17)。
18.2.2 麻酔ブタ新生児に対してトレプロスチニルを急速静脈内投与した結果、低酸素負荷による肺動脈圧及び肺血管抵抗の上昇を抑制した
18)。
18.3 血管拡張作用
18.3.1 トロンボキサンA
2誘導体であるU-46619により収縮させたウサギ腸間膜動脈血管平滑筋を弛緩させた
19)(
in vitro)。
18.3.2 イヌ及びネコへの持続静脈内投与により、肺動脈圧、肺血管抵抗、血圧及び全末梢血管抵抗が低下した
20)。
18.4 血小板凝集抑制作用
18.4.1 コラーゲンによるヒト血小板凝集及びADPによるラット血小板凝集を抑制した
21)(
in vitro)。
18.4.2 持続静脈内投与により、ADPによるウサギ血小板凝集を抑制した。また、皮下投与及び経口投与により、ADPによるラット血小板凝集を抑制した
21)。
18.4.3 持続静脈内投与により、イヌの冠動脈狭窄による血小板凝集に伴う冠血流量減少を抑制した
22)。