1.1 感染症
本剤投与により、敗血症、肺炎等の重篤な感染症があらわれ、致命的な経過をたどるおそれがある。本剤はIL-6の作用を抑制し治療効果を得る薬剤である。IL-6は急性期反応(発熱、CRP増加等)を誘引するサイトカインであり、本剤投与によりこれらの反応が抑制され、感染症に伴う症状が抑制されることがある。そのため感染症の発見が遅れ、重篤化するおそれがあるので、本剤投与中は患者の状態を十分に観察し問診を行うこと。症状が軽微であり急性期反応が認められないときでも、白血球数、好中球数の変動に注意し、感染症が疑われる場合には、胸部X線、CT等の検査を実施し、適切な処置を行うこと。[
8.1、
8.5、
11.1.1参照]
1.2 治療開始に際しては、重篤な感染症等の副作用があらわれることがあること及び本剤が疾病を完治させる薬剤でないことも含めて患者に十分説明し、理解したことを確認した上で、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ本剤を投与すること。
1.3 本剤についての十分な知識と適応疾患の治療の知識・経験をもつ医師が使用すること。
5.1 視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)
※の患者に使用すること。
※「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023」(日本神経学会)を参考にすること。
5.2 抗アクアポリン4(AQP4)抗体陰性の患者において有効性を示すデータは限られている。本剤は、抗AQP4抗体陽性の患者に投与すること。[
17.1.1、
17.1.2参照]
通常、成人及び小児には、サトラリズマブ(遺伝子組換え)として1回120mgを初回、2週後、4週後に皮下注射し、以降は4週間隔で皮下注射する。
7.1 本剤の投与が予定から遅れた場合は、可能な限り速やかに120mgを投与し、以降、その投与を基点とし、前回投与から基点までの経過期間が12週以上の場合は、基点から2週後、4週後に120mgを投与し、以降は4週間隔で120mgを投与すること。前回投与から基点までの経過期間が12週未満の場合は、以下の投与方法を参考にすること。ただし、本剤の副作用による休薬後に投与を再開する場合には、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を延期又は中止するなど適切な処置を行うこと。
●初回投与後の2週目の投与が遅延した場合
・基点から2週後に120mgを投与し、以降は4週間隔で120mgを投与すること。
●初回投与後の4週目の投与が遅延、又は4週間隔となった後の投与が遅延した場合
・前回投与から基点までの経過期間が8週未満
・前回投与から基点までの経過期間が8週以上12週未満
基点から2週後に120mgを投与し、以降は4週間隔で120mgを投与すること。
7.2 本剤を一定期間投与後、再発の頻度について検討し、再発の頻度の減少が認められない等、本剤のベネフィットが期待されないと考えられる患者では、本剤の投与中止を検討すること。
8.1 本剤投与により、急性期反応(発熱、CRP増加等)、感染症状が抑制され、感染症発見が遅れる可能性があるため、急性期反応が認められないときでも、白血球数、好中球数を定期的に測定し、これらの変動及び喘鳴、咳嗽、咽頭痛等の症状から感染症が疑われる場合には、胸部X線、CT等の検査を実施し適切な処置を行うこと。また、感染症の自他覚症状に注意し、異常が見られる場合には、速やかに医療機関に相談するよう、患者を指導すること。[
1.1、
2.1、
9.1.1、
11.1.1参照]
8.2 本剤投与に先立って結核に関する十分な問診(結核の既往歴、結核患者との濃厚接触歴等)及び胸部X線検査に加え、インターフェロン-γ遊離試験又はツベルクリン反応検査を行い、適宜胸部CT検査等を行うことにより、結核感染の有無を確認すること。本剤投与中は、胸部X線検査等の適切な検査を定期的に行うなど結核症の発現には十分に注意し、患者に対し、結核を疑う症状が発現した場合(持続する咳、発熱等)には、速やかに担当医師に相談するよう指導すること。[
2.2、
9.1.3参照]
8.3 抗IL-6受容体抗体製剤においてB型肝炎ウイルスの再活性化が報告されているので、本剤投与に先立って、B型肝炎ウイルス感染の有無を確認すること。[
9.1.2参照]
8.4 本剤投与中は、生ワクチンの接種に起因する感染症発現の可能性を否定できないので、生ワクチンの接種は行わないこと。
8.5 本薬は消失半減期が長く、投与中止後の本薬の血中からの消失は緩徐であり、その間IL-6シグナルの抑制効果が持続するため、感染症の発現等に注意すること。[
1.1、
11.1.1、
16.1.2、
16.8.1参照]
8.6 アナフィラキシーショック、アナフィラキシーがあらわれるおそれがあるので、適切な薬物治療(アドレナリン、副腎皮質ステロイド薬、抗ヒスタミン薬等)や緊急処置を直ちに実施できるようにしておくこと。また、投与終了後も症状のないことを確認すること。[
11.1.2参照]
8.7 総コレステロール値、トリグリセリド値、LDLコレステロール値の増加等の脂質検査値異常があらわれることがあるので、必要に応じて脂質検査を実施し、臨床上必要と認められた場合には、高脂血症治療薬の投与等の適切な処置を考慮すること。
8.8 本剤の投与開始にあたっては、医療機関において、必ず医師によるか、医師の直接の監督のもとで投与を行うこと。自己投与の適用については、医師がその妥当性を慎重に検討し、十分な教育訓練を実施した後、本剤投与による危険性と対処法について患者又はその介護者が理解し、確実に投与できることを確認した上で、医師の管理指導の下で実施すること。自己投与の適用後、感染症等の本剤による副作用が疑われる場合や自己投与の継続が困難な状況となる可能性がある場合には、直ちに自己投与を中止させ、医師の管理下で慎重に観察するなど適切な処置を行うこと。また、本剤投与後に副作用の発現が疑われる場合は、速やかに医療機関へ連絡するよう患者に指導を行うこと。使用済みの注射器を再使用しないように患者に注意を促し、すべての器具の安全な廃棄方法に関する指導の徹底を行うと同時に、使用済みの注射器を廃棄する容器を提供すること。
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 感染症(重篤な感染症を除く)を合併している患者又は感染症が疑われる患者
9.1.2 B型肝炎ウイルスキャリアの患者又は既往感染者(HBs抗原陰性、かつHBc抗体又はHBs抗体陽性)
最新のB型肝炎治療ガイドラインを参考に肝機能検査値や肝炎ウイルスマーカーのモニタリングを行うなど、B型肝炎ウイルスの再活性化の徴候や症状の発現に注意すること。[
8.3参照]
9.1.3 結核の既感染者(特に結核の既往歴のある患者及び胸部X線上結核治癒所見のある患者)又は結核感染が疑われる患者
(1)結核の既感染者では、結核を活動化させる可能性が否定できない。[
2.2、
8.2参照]
(2)結核の既往歴を有する場合及び結核感染が疑われる場合には、結核の診療経験がある医師に相談すること。以下のいずれかの患者には、原則として本剤の投与開始前に適切に抗結核薬を投与すること。[
2.2、
8.2参照]
・胸部画像検査で陳旧性結核に合致するか推定される陰影を有する患者
・結核の治療歴(肺外結核を含む)を有する患者
・インターフェロン-γ遊離試験やツベルクリン反応検査等の検査により、既感染が強く疑われる患者
・結核患者との濃厚接触歴を有する患者
9.1.4 易感染性の状態にある患者
投与を避けることが望ましい。なお、リンパ球数減少が遷延化した場合(目安として500/μL)は、投与を開始しないこと。日和見感染を含む感染症を誘発するおそれがある。
9.1.5 白血球減少、好中球減少、血小板減少のある患者
白血球減少、好中球減少、血小板減少が更に悪化するおそれがある。[
11.1.3参照]
9.3 肝機能障害患者
トランスアミナーゼ値増加に注意するなど観察を十分に行うこと。[
11.1.4参照]
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。動物実験(カニクイザル)で本薬は胎盤関門を通過することが示されている。
9.6 授乳婦
治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。本薬のヒト乳汁への移行は不明である。一般にIgGは乳汁中に移行することが知られており、非臨床試験においても本薬は乳汁中へ移行することが確認されている。
9.7 小児等
11.1 重大な副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.1.1 感染症
11.1.2 アナフィラキシーショック(頻度不明)、アナフィラキシー(頻度不明)
血圧低下、呼吸困難、意識消失、めまい、嘔気、嘔吐、そう痒感、潮紅等があらわれるおそれがあるので、異常が認められた場合には直ちに投与を中止し、アドレナリン、副腎皮質ステロイド薬、抗ヒスタミン薬を投与するなど適切な処置を行うとともに症状が回復するまで患者の状態を十分に観察すること。[
8.6参照]
11.1.3 無顆粒球症(頻度不明)
、白血球減少(11.7%)
、好中球減少(4.8%)
、血小板減少(1.4%)[
9.1.5参照]
11.1.4 肝機能障害(頻度不明)
AST、ALT、ビリルビン等の上昇を伴う肝機能障害があらわれることがある。[
9.3参照]
11.2 その他の副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
| 5%以上 | 5%未満 |
感染症 | | 上気道感染、副鼻腔炎、帯状疱疹 |
血液・凝固 | リンパ球数減少 | フィブリノゲン減少、貧血 |
肝臓 | | ビリルビン増加、ALT増加 |
代謝 | | コレステロール増加、脂質異常症 |
消化器 | | 下痢 |
その他 | 注射に伴う反応(発疹、発赤、頭痛等)(11.7%) | |
14.1 薬剤投与前の注意
14.1.1 混濁、変色又は容易に認められる粒子がある場合は使用しないこと。半透明〜白色の製品由来の微粒子を含むことがある。
14.1.2 シリンジに損傷がないか確認し、異常が認められた場合には使用しないこと。
14.2 薬剤投与時の注意
14.2.1 注射部位は、腹部又は大腿部を選ぶこと。同一箇所へ繰り返し注射することは避けること。
14.2.2 皮膚が敏感な部位、皮膚に異常のある部位(傷、発疹、発赤、硬結等)には注射しないこと。
14.2.3 本剤は1回使用の製剤であるため、使用済みの注射器は再使用せず廃棄すること。
14.3 薬剤交付時の注意
14.3.1 患者が家庭で保存する場合は、本剤は外箱に入れた状態で、凍結を避け、冷蔵庫内で保管すること。やむを得ず室温(30℃以下)で保存する場合は、累積8日以内に使用するか、使用しない場合は廃棄すること。
17.1 有効性及び安全性に関する試験
17.1.1 国際共同第III相二重盲検並行群間比較試験(併用試験、SA-307JG試験)
12〜74歳の視神経脊髄炎スペクトラム障害患者(39.4〜140.4kg)を対象に、経口副腎皮質ステロイド(15mg/日以下、プレドニゾロン換算)及び/又は免疫抑制剤[アザチオプリン(3mg/kg/日以下)又はミコフェノール酸モフェチル(3000mg/日以下)]投与下で、サトラリズマブ120mg又はプラセボを0週、2週、4週、以降は4週間隔で皮下投与する二重盲検比較試験を実施した。二重盲検期間は再発(臨床主要評価判定委員会が判断した治験実施計画書に規定された再発)が26件集まるまでの期間であった。成績は以下のとおりであった。
・初回再発までの期間
初回再発までの期間に関する主な結果は表1、図1及び図2のとおりであった(83例、うち日本人21例)。本剤群のプラセボ群に対する初回再発までの期間のハザード比は0.38であった(P=0.0184、層別ログランク検定)。抗AQP4抗体陽性集団における本剤群のプラセボ群に対する初回再発までの期間のハザード比は0.21であった
10)。
表1 初回再発注)までの期間に関する主な結果(SA-307JG試験)
| サトラリズマブ群 | プラセボ群 |
全体集団(主要評価項目対象集団) |
例数 | 41例(日本人11例) | 42例(日本人10例) |
リスク減少率 | 62%(ハザード比:0.38、95%信頼区間:0.16-0.88、P値:0.0184) |
抗AQP4抗体陽性集団 |
例数 | 27例(日本人10例) | 28例(日本人9例) |
リスク減少率 | 79%(ハザード比:0.21、95%信頼区間:0.06-0.75) |
抗AQP4抗体陰性集団 |
例数 | 14例(日本人1例) | 14例(日本人1例) |
リスク減少率 | 34%(ハザード比:0.66、95%信頼区間:0.20-2.23) |
注)臨床主要評価判定委員会が判断した治験実施計画書に規定された再発
図1 初回再発までの期間(SA-307JG試験、全体集団)
図2 初回再発までの期間(SA-307JG試験、抗AQP4抗体陽性集団)
二重盲検期間中において、本剤を投与された41例中17例(41.5%)に副作用が認められた。主な副作用は、注射に伴う反応5例(12.2%)、白血球減少症5例(12.2%)、リンパ球減少症3例(7.3%)であった
11)。
17.1.2 海外第III相二重盲検並行群間比較試験(単剤試験、SA-309JG試験)
18〜74歳の視神経脊髄炎スペクトラム障害患者(42.1〜151.0kg)を対象に、サトラリズマブ120mg又はプラセボを単剤で0週、2週、4週、以降は4週間隔で皮下投与する二重盲検比較試験を実施した。二重盲検期間は最終症例がランダム化されてから1.5年後までであった。成績は以下のとおりであった。
・初回再発までの期間
初回再発までの期間に関する結果は表2、図3及び図4のとおりであった。本剤群のプラセボ群に対する初回再発までの期間のハザード比は0.45であった(P=0.0184、層別ログランク検定)。抗AQP4抗体陽性集団における本剤群のプラセボ群に対する初回再発までの期間のハザード比は0.26であった
12)。
表2 初回再発注)までの期間に関する主な結果(SA-309JG試験)
| サトラリズマブ群 | プラセボ群 |
全体集団(主要評価項目対象集団) |
例数 | 63例 | 32例 |
リスク減少率 | 55%(ハザード比:0.45、95%信頼区間:0.23-0.89、P値:0.0184) |
抗AQP4抗体陽性集団 |
例数 | 41例 | 23例 |
リスク減少率 | 74%(ハザード比:0.26、95%信頼区間:0.11-0.63) |
抗AQP4抗体陰性集団 |
例数 | 22例 | 9例 |
リスク減少率 | −(ハザード比:1.19、95%信頼区間:0.30-4.78) |
図3 初回再発までの期間(SA-309JG試験、全体集団)
図4 初回再発までの期間(SA-309JG試験、抗AQP4抗体陽性集団)
二重盲検期間中において、本剤を投与された63例中22例(34.9%)に副作用が認められた。主な副作用は、注射に伴う反応6例(9.5%)、下痢4例(6.3%)であった
13)。
21.1 医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること。
21.2 国内での治験症例が極めて限られていることから、製造販売後、一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は、全症例を対象に使用成績調査を実施することにより、本剤の使用患者の背景情報を把握するとともに、本剤の安全性及び有効性に関するデータを早期に収集し、本剤の適正使用に必要な措置を講じること。