臨床試験において、侵襲を伴う処置による急性発作の発症抑制に対する有効性及び安全性は検討されていない。
通常、成人及び12歳以上の小児には、ベロトラルスタットとして150mg(1カプセル)を1日1回経口投与する。
8.1 患者又はその家族に以下の内容を十分に説明し、理解を得た上で使用すること。
(1)急性発作の治療を目的に本剤を服用しないこと。
(2)本剤にはQT延長を含めた安全性の懸念があること。
8.2 QT延長があらわれるおそれがあるので、本剤投与前及び投与中は、心電図検査を行うなど患者の状態を十分に確認すること。また、QT延長を起こしやすい患者や、本剤の血中濃度が上昇する可能性のある患者では、QT延長等の副作用があらわれやすくなるので特に注意すること。[
9.1.1、
9.3.1、
10.2、
16.6.3参照]
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 QT延長又はその既往歴のある患者、QT延長を起こしやすい患者(不整脈、虚血性心疾患、低カリウム血症等の患者)
QT延長が悪化する又はあらわれるおそれがある。[
8.2、
10.2参照]
9.3 肝機能障害患者
9.3.1 中等度及び重度の肝機能障害(Child-Pugh分類B、C)のある患者
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
ラット及びウサギで胎盤を通過することが確認されている。ラットの胚・胎児発生に関する試験で妊娠6〜17日に本剤の臨床曝露量(150mgを1日1回投与)の8.6倍の曝露がみられた用量を投与したとき、妊娠の維持や分娩、胚・胎児発生、生存又は成長には影響を及ぼさなかった。
ウサギの胚・胎児発生に関する試験で妊娠7〜19日に本剤の臨床曝露量(150mgを1日1回投与)の1.5倍の曝露がみられた用量を投与したとき、胚・胎児発生、生存、成長には影響を及ぼさなかった
1)。
9.6 授乳婦
治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。
授乳14日目の仔ラットの血漿中にベロトラルスタットが母体血漿中の約5%の濃度で検出された
2)。
9.7 小児等
低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は12歳未満の小児を対象とした臨床試験は実施していない。
11.1 重大な副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.1.1 肝機能障害(3.8%)
11.2 その他の副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
| 5%以上10%未満 | 1%以上5%未満 |
消化器 | 腹痛、下痢、鼓腸 | 上腹部痛、胃食道逆流性疾患、嘔吐 |
皮膚および皮下組織障害 | | 発疹 |
肝臓 | | ALT上昇、AST上昇、γ-GTP上昇 |
14.1 薬剤交付時の注意
PTP包装の薬剤はPTPシートから取り出して服用するよう指導すること。PTPシートの誤飲により、硬い鋭角部が食道粘膜へ刺入し、更には穿孔をおこして縦隔洞炎等の重篤な合併症を併発することがある。
16.1 血中濃度
16.1.1 単回投与
日本人健康成人6例に本剤87mg
注3)を単回投与したときの薬物動態パラメータは以下のとおりであった
6)。
単回投与時の薬物動態パラメータ
| Cmax(ng/mL) | Tmax注1)(時間) | AUC0-96h(ng・h/mL) | T1/2(時間) |
幾何平均値(変動係数%)a | 37.9(24) | 4.99(2.00-5.00) | 553(23) | 55.6(26) |
16.1.2 反復投与
外国人健康成人14例に本剤150mgを14日間反復投与したときの薬物動態パラメータは以下のとおりであった
7)(外国人データ)。
反復投与時の薬物動態パラメータ(外国人データ)
| Cmax(ng/mL) | Tmax注2)(時間) | AUC0-24h(ng・h/mL) | T1/2(時間) |
幾何平均値(変動係数%)a | 158(24.4) | 2.50(1.0-8.1) | 2770(24.0) | 40(32) |
16.2 吸収
16.2.1 食事の影響
健康成人22例を対象に、高脂肪食摂取後に本剤300mg
注3)を投与したとき、空腹時と比較してTmax(中央値)は空腹時が2時間であったのに対し、食後に5時間となり、3時間の遅延がみられたが、Cmax及びAUCに変化はみられなかった
8)(外国人データ)。
16.3 分布
健康成人に本剤150mgを経口投与したときの本剤の血漿蛋白結合率は99%であった
9)(平衡透析法及びLC-MS/MS、外国人データ)。
16.4 代謝
本剤は主にCYP2D6及びCYP3A4で代謝される(
in vitro)。[
10.参照]
16.5 排泄
本剤300mg注3)を単回投与したとき、投与1,176時間までに尿中に8.1%、糞便中に77.4%排泄された。投与120時間までの検体で代謝物の検討が行われ、主な成分は未変化体であった(尿中に4.1%排泄されたうち未変化体は2.79%、糞便中に45.5%排泄されたうち未変化体は17.2%)。
16.6 特定の背景を有する患者
16.6.1 腎機能障害患者
重度の腎機能障害(eGFR30mL/min未満)を有する被験者を対象に、本剤200mg
注3)を単回投与したときの薬物動態を検討した。腎機能が正常(eGFR80mL/min超)の被験者と比較して、Cmaxが39%増加したが、AUC
0-120hには差はみられなかった
10)(外国人データ)。血液透析を必要とする末期腎不全患者での薬物動態は検討されていない。
16.6.2 肝機能障害患者
軽度、中等度、重度の肝機能障害(それぞれChild-Pugh分類A、B、C)を有する被験者に本剤150mgを単回投与したときの薬物動態パラメータは以下のとおりであった。また、投与6時間後の各群の血漿中本薬非結合分率は、正常な肝機能の患者で1.10%、軽度、中等度及び重度の肝機能障害患者で1.24、1.57及び2.38%であった
9)(外国人データ)。[
9.3.1、
11.1.2、
17.3.1参照]
本剤150mg単回経口投与時の薬物動態パラメータ
肝機能障害の程度 | 例数 | Cmax(ng/mL) | AUC0-240h(ng・h/mL) | T1/2(時間) |
正常 | 6 | 55.1±35 | 858±428 | 96.3±41.9 |
軽度 | 6 | 56.3±37.6 | 878±367 | 102±49.1 |
中等度 | 6 | 90.1±45 | 1,320±442 | 125±15.6 |
重度 | 6 | 64.5±36.3 | 730±261 | 125±41.8 |
本剤150mg単回経口投与時の薬物動態パラメータ(続き)
肝機能障害の程度 | 例数 | 最小二乗幾何平均値の比[90%CI] (肝機能障害/正常肝機能) |
Cmax | AUC0-240h |
正常 | 6 | / |
軽度 | 6 | 1.01[0.54,1.88] | 1.04[0.62,1.77] |
中等度 | 6 | 1.77[0.95,3.29] | 1.70[1.00,2.87] |
重度 | 6 | 1.27[0.68,2.37] | 0.95[0.56,1.61] |
16.6.3 低体重の患者
ベロトラルスタットの母集団薬物動態解析において、体重が共変量として選択され、低体重の患者ではベロトラルスタットの血中濃度が上昇することが示唆された。[
8.2参照]
16.7 薬物相互作用
16.7.1 シクロスポリン
健康成人17例にシクロスポリン600mgを投与し、1時間後に本剤300mg
注3)(臨床用量の約2倍)を投与したところ、非併用時と比較してベロトラルスタットのCmaxが25%、AUC
0-72hが55%上昇した
11)(外国人データ)。[
10.2参照]
16.7.2 ミダゾラム
健康成人21例に本剤150mgを定常状態になるまで1日1回9日間反復経口投与し、ミダゾラム(CYP3A4基質)4mg(経口)を併用したところ、非併用時と比較してミダゾラムのCmaxが45%、AUC
0-48hが124%上昇した
12)(外国人データ)。[
10.2参照]
16.7.3 アムロジピン
健康成人13例に本剤150mgを定常状態になるまで1日1回12日間反復経口投与し、アムロジピン(CYP3A基質)5mg(経口)を併用したところ、非併用時と比較してアムロジピンのCmaxが45%、AUC
0-144hが77%上昇した
13)(外国人データ)。[
10.2参照]
16.7.4 デキストロメトルファン
健康成人21例に本剤150mgを定常状態になるまで1日1回9日間反復経口投与し、デキストロメトルファン(CYP2D6基質)30mg(経口)を併用したところ、非併用時と比較してデキストロメトルファンのCmaxが196%、AUC
0-48hが178%上昇した
12)(外国人データ)。[
10.2参照]
16.7.5 ジゴキシン
健康成人17例に本剤300mg
注3)(臨床用量の約2倍)を定常状態になるまで1日1回8日間投与し、本剤300mg
注3)投与1時間後にジゴキシン0.25mgを投与したところ、ジゴキシンのCmaxが58%、AUC
0-72hが48%上昇した
11)(外国人データ)。[
10.2参照]
16.7.6 トルブタミド
健康成人21例に本剤150mgを定常状態になるまで1日1回9日間反復経口投与し、トルブタミド(CYP2C9基質)500mg(経口)を併用したところ、非併用時と比較してトルブタミドのCmaxが19%、AUC
0-48hが73%上昇した
12)(外国人データ)。
注3)本剤の承認された用法用量は「ベロトラルスタットとして150mgを1日1回経口投与する」である。
17.1 有効性及び安全性に関する試験
17.1.1 国内第3相試験(APeX-J試験)
12歳以上のI型又はII型遺伝性血管性浮腫(HAE)患者19例を対象とした多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験(本剤110mg注)、150mg、又はプラセボを1日1回経口投与)において、主要評価項目である投与24週時におけるHAE発作の頻度(28日あたりの発作回数)は、本剤150mg投与群で1.11回、プラセボ群で2.18回であり、本剤150mg群でプラセボ群と比較して49%減少した(p=0.003)。
副作用は、本剤150mg投与群の33.3%(3/9例)に認められ、発現した副作用は上腹部痛、胃炎、傾眠、発熱、肝酵素上昇が各1例であった
14)。
17.1.2 海外第3相試験(APeX-2試験)
12歳以上のI型又はII型遺伝性血管性浮腫(HAE)患者121例を対象とした多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験(本剤110mg注)、150mg、又はプラセボを1日1回経口投与)において、主要評価項目である投与24週時におけるHAE発作の頻度(28日あたりの発作回数)は、本剤150mg投与群で1.31回、プラセボ群で2.35回であり、本剤150mg投与群でプラセボ群と比較して44%減少した(p<0.001)。
副作用は、本剤150mg投与群の37.5%(15/40例)に認められ、主な副作用は、下痢(4例、10%)、消化不良(3例、7.5%)、鼓腸(3例、7.5%)、腹痛(2例、5.0%)、上腹部痛(2例、5.0%)であった
15)(外国人データ)。
17.3 その他
17.3.1 Thorough QT試験
健康被験者40例を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験において、本剤治療用量(150mg、n=14)、高用量(450mg
注)、n=14)、又はプラセボ(n=12)を14日間投与した際の最高血中濃度(Cmax)及びプラセボ補正したQTcF(Fridericia法)は、本剤150mgを投与したとき158ng/mL及び3.4msec(両側90%信頼区間:0.0,6.8msec)であり、本剤450mg
注)を投与したとき577ng/mL及び21.9msec(両側90%信頼区間:14.4,29.4msec)であった
7)(外国人データ)。[
9.3.1、
11.1.2、
16.6.2参照]
注)本剤の承認された用法用量は「ベロトラルスタットとして150mgを1日1回経口投与する」である。
18.1 作用機序
ベロトラルスタットは経口投与可能な血漿カリクレイン阻害剤である。血漿カリクレインは、高分子量キニノーゲンを切断するセリンプロテアーゼであり、血管透過性を亢進させる強力な血管拡張物質であるブラジキニンを放出する。ベロトラルスタットは血漿カリクレイン活性を低下させ、遺伝性血管性浮腫患者における過剰なブラジキニン生成を制御する。
18.2 血漿カリクレイン選択的阻害作用
ベロトラルスタットの血漿カリクレインに対するIC
50は0.88nmol/Lであった(
in vitro)
16)。
18.3 カリクレイン依存性ブラジキニン産生阻害作用
ベロトラルスタットはヒト臍帯静脈内皮細胞におけるカリクレイン依存性ブラジキニンの産生を阻害した[EC
50:5.56nmol/L(平均)](
in vitro)
16)。
18.4 ヒト血漿中のカリクレイン活性阻害作用
正常ヒト血漿中の血漿カリクレイン活性に対するベロトラルスタットの平均EC
50は5.4nmol/Lであり、遺伝性血管性浮腫患者から採取した血漿では15.9nmol/L(平均)であった(
ex vivo)
16)。
21.1 医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること。
21.2 国内での治験症例が極めて限られていることから、製造販売後、一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は、全症例を対象に使用成績調査を実施することにより、本剤使用患者の背景情報を把握するとともに、本剤の安全性及び有効性に関するデータを早期に収集し、本剤の適正使用に必要な措置を講じること。