<効能共通>
5.1 本剤の使用にあたっては、最新の治療ガイドラインを参考に投与の要否を検討すること。
<肺動脈性肺高血圧症>
5.2 WHO機能分類クラスIにおける有効性及び安全性は確立していない。
5.3 特発性肺動脈性肺高血圧症、遺伝性肺動脈性肺高血圧症及び結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧症以外の肺動脈性肺高血圧症における有効性及び安全性は確立していない。
<間質性肺疾患に伴う肺高血圧症>
5.4 「17.臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験に組み入れられた患者の背景(間質性肺疾患の臨床分類等)を十分に理解した上で、適応患者を選択すること。
5.5 WHO機能分類クラスIVにおける有効性及び安全性は確立していない。
<肺動脈性肺高血圧症>
通常、成人には、1日4回ネブライザを用いて吸入投与する。1回3吸入(トレプロスチニルとして18μg)から投与を開始し、忍容性を確認しながら、7日以上の間隔で、1回3吸入ずつ、最大9吸入(トレプロスチニルとして54μg)まで漸増する。3吸入の増量に対して忍容性に懸念がある場合は、増量幅を1又は2吸入としてもよい。忍容性がない場合は減量し、1回最小量は1吸入とすること。
<間質性肺疾患に伴う肺高血圧症>
通常、成人には、1日4回ネブライザを用いて吸入投与する。1回3吸入(トレプロスチニルとして18μg)から投与を開始し、忍容性を確認しながら、3日以上の間隔で、1回1吸入ずつ、最大12吸入(トレプロスチニルとして72μg)まで漸増する。忍容性がない場合は減量し、1回最小量は1吸入とすること。
7.1 吸入間隔は約4時間あけること。
7.2 本剤の吸入にはTD-300/Jネブライザを使用すること。[
14.1参照]
7.3 肝障害のある患者においては、重症度に応じて1回1又は2吸入から投与を開始し、慎重に増量すること。[
9.3、
16.6.2参照]
8.1 本剤の投与は、病状の変化への適切な対応が重要であるため、緊急時に十分な対応が可能な医療施設において肺高血圧症及び心不全の治療に十分な知識と経験をもつ医師のもとで、本剤の投与が適切と判断される症例にのみ行うこと。
8.2 本剤は血管拡張作用を有するため、本剤の投与に際しては、血管拡張作用により患者が有害な影響を受ける状態(降圧剤投与中、安静時低血圧、血液量減少、重度の左室流出路閉塞、自律神経機能障害等)にあるのかを十分検討すること。
8.3 血小板減少、好中球減少があらわれることがあるので、定期的に臨床検査を行うなど観察を十分に行うこと。[
11.1.3参照]
8.4 甲状腺機能亢進症があらわれることがあるので、必要に応じて甲状腺機能検査を実施するなど観察を十分に行うこと。[
11.1.4参照]
8.5 臨床試験において、めまい等が認められているので、高所作業、自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には注意させること。
8.6 類薬では、吸入時に致死的な気管支痙攣が報告されている。気管支痙攣が認められた場合は、直ちに投与を中止し、適切な処置を行うこと。
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 肺静脈閉塞性疾患を有する患者
投与しないことが望ましい。本剤の血管拡張作用により、心血管系の状態を著しく悪化させるおそれがある。
9.1.2 高度に肺血管抵抗が上昇している患者
肺血管抵抗が高度に上昇した病態を示す肺高血圧症の末期と考えられる患者では、心機能も著しく低下している。
9.1.3 出血傾向のある患者
本剤の血小板凝集抑制作用により、出血を助長するおそれがある。
9.1.4 低血圧の患者
本剤の血管拡張作用により、血圧をさらに低下させるおそれがある。
9.3 肝機能障害患者
本剤の血中濃度が上昇する。また、重度の肝障害(Child-Pugh分類C)のある患者を対象として有効性及び安全性を評価した臨床試験は実施していない。[
7.3、
16.6.2参照]
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。動物実験(ウサギ)において骨格変異(腰肋骨)を有する胎児の発生率の増加が臨床曝露量(トレプロスチニルとして72μg吸入投与時)の3.1倍に相当する曝露量で認められている。
9.6 授乳婦
治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。類薬の動物試験(ラット)で乳汁中へ移行することが報告されている。
9.7 小児等
小児等を対象とした有効性及び安全性を指標とした臨床試験は実施していない。
9.8 高齢者
11.1 重大な副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.1.1 血圧低下(1.6%)、失神(1.3%)
11.1.2 出血(頻度不明)
11.1.3 血小板減少(頻度不明)
、好中球減少(頻度不明)[
8.3参照]
11.1.4 甲状腺機能亢進症(頻度不明)[
8.4参照]
11.2 その他の副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
| 10%以上 | 10%未満 | 頻度不明 |
出血傾向 | | 喀血、肺出血、鼻出血 | 不正子宮出血、結膜出血、紫斑 |
循環器 | | 潮紅、ほてり、動悸、低血圧 | |
消化器 | 悪心 | 下痢、軟便、嘔吐、腹痛 | 上腹部痛 |
筋骨格 | | 顎痛、四肢痛、筋骨格痛、筋肉痛 | |
精神神経系 | 頭痛、浮動性めまい | 頭部不快感、異常感、不眠症 | |
呼吸器 | 咳嗽(45.7%)、咽喉刺激感、呼吸困難 | 口腔咽頭痛、口腔咽頭不快感、口腔内不快感、鼻閉、喘鳴 | 喀痰 |
皮膚 | | 発疹、そう痒症 | |
その他 | | 発熱、倦怠感、浮腫 | |
13.1 症状
本剤の過量投与後には過度の薬理学的作用により、潮紅、頭痛、低血圧、悪心、嘔吐、下痢等が発現する。
13.2 処置
トレプロスチニルは透析では除去されない。[
16.6.1参照]
16.1 血中濃度
16.1.1 単回投与
健康成人12例に本剤18μg及び36μgを単回吸入投与したときの薬物動態パラメータ(Cmax、AUClast、tmax及びt
1/2)は、以下のとおりであった。Cmax及びAUClastは投与量に応じて増加した
1)。
単回吸入投与時の血漿中濃度推移
単回吸入投与時の薬物動態パラメータ
投与量 | n | Cmaxa)(ng/mL) | AUClasta)(ng・hr/mL) | tmaxb)(hr) | t1/2a)(hr) |
18μg | 12 | 0.42633±0.06633 | 0.32846±0.07441 | 0.1667[0.083〜0.250] | 0.4523±0.0955 |
36μg | 12 | 0.86983±0.18213 | 0.68544±0.17670 | 0.1667[0.167〜0.250] | 0.5229±0.1382 |
<肺動脈性肺高血圧症>
16.1.2 反復投与
肺動脈性肺高血圧症患者に本剤を12週間吸入投与したとき、12週時に本剤1回の投与量が9吸入(54μg)であった被験者12例におけるCmax、AUClast、AUCinf及びt
1/2(平均値±標準偏差)は、それぞれ1.03467±0.54191ng/mL、0.99429±0.56639ng・hr/mL、1.04735±0.60064ng・hr/mL及び0.7219±0.1115hrであり、tmax(中央値[最小値〜最大値])は0.1667[0.067〜1.017]hrであった
2)。
<間質性肺疾患に伴う肺高血圧症>
16.1.3 反復投与
間質性肺疾患(気腫合併肺線維症を含む)に伴う肺高血圧症患者に本剤を16週間吸入投与したとき、16週時に本剤1回の投与量が12吸入(72μg)であった被験者15例におけるCmax、AUClast、AUCinf及びt
1/2(平均値±標準偏差)は、それぞれ1.95653±0.97303ng/mL、1.70530±0.93260ng・hr/mL、1.79127±0.95409ng・hr/mL及び0.9523±0.1645hrであり、tmax(中央値[最小値〜最大値])は0.1667[0.067〜0.267]hrであった
3)。
16.2 吸収
健康成人18例に本剤18μg及び36μgを単回吸入投与したときの絶対的生物学的利用率は、それぞれ61.52±18.26%及び74.05±15.72%であった
4)(外国人データ)。
16.3 分布
16.3.1 分布容積
健康成人12例に本剤18μg及び36μgを単回吸入投与したときの消失相の見かけの分布容積(Vz/F)は、それぞれ35.59644±9.37359L及び40.57935±14.75002Lであった
1)。
16.3.2 血漿蛋白結合率
In vitro試験において、トレプロスチニルのヒト血漿蛋白結合率は、96.1〜96.3%(平衡透析法)、91.0%(限外ろ過法)であり、結合率に濃度依存性は認められなかった
5)。
16.4 代謝
In vitro試験において、トレプロスチニルは主にCYP2C8(一部CYP2C9)により代謝されることが示唆された。トレプロスチニルは各種CYP分子種(CYP1A2、2A6、2C8、2C9、2C19、2D6、2E1、3A及び3A4)に対して顕著な阻害は示さなかった。また、ヒト肝細胞を用いた試験において、CYP1A2、2B6、2C8、2C9、2C19及び3A4の顕著な誘導は認められなかった
6)。ヒト肺ミクロソーム及びS9を用いた試験により、肺ではほとんど代謝されないと推定された
7)。[
10.参照]
16.5 排泄
健康成人24例にトレプロスチニルの注射剤を持続皮下投与又は持続静脈内投与(2.5、5、10又は15ng/kg/分、150分間)したとき、投与開始後48時間までに、未変化体及び未変化体のグルクロナイドとして、皮下投与ではそれぞれ投与量の5.4〜6.8%及び11.2〜15.0%、静脈内投与ではそれぞれ投与量の4.5〜6.1%及び11.0〜13.5%が尿中に排泄された
8)。
健康成人6例に
14Cで標識したトレプロスチニルの注射剤を持続皮下投与(15ng/kg/分、8時間)したとき、投与開始後224時間までに、投与放射能の78.6%が尿中に、13.4%が糞中に排泄された。尿中には、未変化体として投与放射能の3.7%が排泄され、5種の代謝物(3種のトレプロスチニル3-ヒドロキシオクチル側鎖の酸化体、未変化体のグルクロナイド、1種の構造未同定代謝物)が、それぞれ投与放射能の10.2〜15.5%排泄された
9)(外国人データ)。
16.6 特定の背景を有する患者
16.6.1 腎機能障害患者
透析を必要とする重度の腎機能障害患者8例にトレプロスチニルの経口剤1mgを透析前及び透析後に単回投与した結果、健康成人と比べてトレプロスチニルの薬物動態に影響は認められなかった
10)(透析前投与時のAUC:39.1%低下、Cmax:28.3%低下、透析後投与時のAUC:22.9%低下、Cmax:6.7%上昇)(外国人データ)。[
13.2参照]
16.6.2 肝機能障害患者
軽度又は中等度(Child-Pugh分類A又はB)の肝機能障害を有する門脈肺高血圧症患者9例にトレプロスチニルの注射剤を持続皮下投与(10ng/kg/分、150分間)したとき、軽度(5例)及び中等度(4例)の肝機能障害患者におけるCmax及びAUCは、健康成人に比べて、軽度肝機能障害患者がそれぞれ127%及び161%、中等度肝機能障害患者がそれぞれ340%及び412%上昇した
11)(外国人データ)。[
7.3、
9.3参照]
16.7 薬物相互作用
16.7.1 本剤の有効成分であるトレプロスチニルの注射剤を用いた海外臨床試験の成績
(1)アセトアミノフェン
健康成人26例にアセトアミノフェン1000mgを6時間ごとに7回反復経口投与し、5回目の投与の後、トレプロスチニルの注射剤を15ng/kg/分で6時間併用持続皮下投与したとき、トレプロスチニルの薬物動態に影響は認められなかった
12)(外国人データ)。
(2)ワルファリン
健康成人15例にトレプロスチニルの注射剤を5ng/kg/分(1日目)及び10ng/kg/分(2〜9日目)で持続皮下投与し、3日目にワルファリン25mgを併用経口投与したとき、血清中
R-ワルファリン及び
S-ワルファリンの薬物動態に影響は認められなかった。また、ワルファリンの抗凝固作用(プロトロンビン時間の国際標準比(INR)値)に影響は認められなかった
13)(外国人データ)。[
10.2参照]
16.7.2 本剤の有効成分であるトレプロスチニルの経口剤を用いた海外臨床試験の成績
(1)ボセンタン
健康成人23例にトレプロスチニルの経口剤1mgを1日2回とボセンタン125mgを1日2回、4.5日間反復併用経口投与したとき、トレプロスチニル及びボセンタンの薬物動態に影響は認められなかった
14)(外国人データ)。
(2)シルデナフィル
健康成人18例にトレプロスチニルの経口剤1mgを1日2回とシルデナフィル20mgを1日3回、4.5日間反復併用経口投与したとき、トレプロスチニル及びシルデナフィルの薬物動態に影響は認められなかった
15)(外国人データ)。
(3)リファンピシン
健康成人20例にトレプロスチニルの経口剤1mgを1日目(単独投与)及び11日目(併用投与)に経口投与し、リファンピシン600mgを3日目から12日目に反復経口投与したとき、11日目のトレプロスチニルのCmax及びAUCはそれぞれ16.6%及び21.7%低下した
16)(外国人データ)。[
10.2参照]
(4)ゲムフィブロジル
健康成人20例にゲムフィブロジル(国内未承認)600mgを1日2回、4日間反復経口投与し、3日目にトレプロスチニルの経口剤1mgを併用経口投与したとき、トレプロスチニルのCmax及びAUCはそれぞれ96.4%及び91.6%上昇した
17)(外国人データ)。[
10.2参照]
(5)フルコナゾール
健康成人20例にフルコナゾールを7日間反復経口投与(1日目400mg、引き続き200mgを6日間)し、6日目にトレプロスチニルの経口剤1mgを併用経口投与したとき、AUCがやや低下したものの(14.6%低下)、トレプロスチニルの薬物動態に顕著な影響は認められなかった
17)(外国人データ)。
18.1 作用機序
プロスタサイクリンと同様に、トレプロスチニルは、血管拡張作用及び血小板凝集抑制作用により、肺動脈の収縮及び血栓形成を抑制し、肺動脈圧及び肺血管抵抗を低下させることで、肺動脈性肺高血圧症及び間質性肺疾患に伴う肺高血圧症に対する有効性を示すと考えられる。
18.2 肺高血圧症モデルにおける有効性
18.2.1 ウサギ摘出灌流肺に対して換気ガス中にトレプロスチニルを噴霧した結果、トロンボキサンA
2誘導体による肺動脈圧の上昇を抑制した
20)。
18.2.2 麻酔ラット及び麻酔ウサギに対してトレプロスチニルを吸入投与した結果、トロンボキサンA
2誘導体による肺動脈圧の上昇を抑制した
20)。
18.2.3 モノクロタリン誘発肺高血圧ラットに対してトレプロスチニルを吸入投与した結果、生存率の低下を抑制した
20)。
18.2.4 麻酔ネコに対してトレプロスチニルを持続静脈内投与した結果、低酸素負荷による肺動脈圧及び肺血管抵抗の上昇を抑制した
21)。
18.2.5 麻酔ブタ新生児に対してトレプロスチニルを急速静脈内投与した結果、低酸素負荷による肺動脈圧及び肺血管抵抗の上昇を抑制した
22)。
18.3 血管拡張作用
18.3.1 トロンボキサンA
2誘導体であるU-46619により収縮させたウサギ腸間膜動脈血管平滑筋を弛緩させた
23)(
in vitro)。
18.3.2 イヌ及びネコへの持続静脈内投与により、肺動脈圧、肺血管抵抗、血圧及び全末梢血管抵抗が低下した
24)。
18.4 血小板凝集抑制作用
18.4.1 コラーゲンによるヒト血小板凝集及びADPによるラット血小板凝集を抑制した
25)(
in vitro)。
18.4.2 持続静脈内投与により、ADPによるウサギ血小板凝集を抑制した。また、皮下投与及び経口投与により、ADPによるラット血小板凝集を抑制した
25)。
18.4.3 持続静脈内投与により、イヌの冠動脈狭窄による血小板凝集に伴う冠血流量減少を抑制した
26)。
医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること。