1.1 本剤の臨床試験において、重篤な血栓塞栓性事象の発現が複数例に認められている。本剤投与中は観察を十分に行い、血栓塞栓性事象が疑われる場合には本剤の投与を中止し、適切な処置を行うこと。また、患者に対し、血栓塞栓性事象の兆候や症状について十分説明すること。[
8.1、
9.1.1、
11.1.1、
15.2参照]
1.2 本剤は、血友病治療に十分な知識・経験を持つ医師のもと、緊急時に十分対応できる医療機関で投与開始すること。[
8.1、
9.1.1、
11.1.1参照]
1.3 本剤の投与開始に先立ち、患者又は介護者に危険性を十分説明し、同意を得た上で本剤を投与すること。
血液凝固第VIII因子又は第IX因子に対するインヒビターを保有しない先天性
血友病患者における出血傾向の抑制
通常、12歳以上かつ体重35kg以上の患者には、マルスタシマブ(遺伝子組換え)として初回に300mgを皮下投与し、以降は1週間隔で1回150mgを皮下投与する。なお、体重50kg以上で効果不十分な場合には、1週間隔で1回300mgに増量して皮下投与できる。
7.1 本剤は、出血傾向の抑制を目的とした定期的な投与のみに使用し、出血時の止血を目的とした投与は行わないこと。[
8.4.3参照]
7.2 本剤の投与にあたっては投与忘れがないよう十分指導すること。投与予定日に本剤を投与できなかった場合は、可能な限り速やかに予定していた用量で投与を再開し、以降は原則としてその投与日を起点として週1回投与すること。なお、投与再開日が最終投与日から14日目以降の場合、再開時の初回投与量は300mgとすること。
8.1 本剤の臨床試験において、重篤な血栓塞栓性事象の発現が認められている。血栓塞栓性事象があらわれる可能性があるので、血栓塞栓性事象の既往又は危険因子の有無を慎重に確認した上で、本剤の投与を開始すること。また、患者に対し、血栓塞栓性事象の兆候や症状について十分説明するとともに、以下の注意事項の重要性についても理解を得た上で投与を開始すること。[
1.1、
1.2、
9.1.1、
11.1.1、
15.2参照]
8.2 血液凝固第VIII因子又は第IX因子製剤による補充療法から本剤に切り替える場合は、切り替え前の製剤の半減期を考慮し、本剤投与開始前の適切な時期に中止すること。
8.3 血液凝固因子製剤以外の血友病治療薬から本剤に切り替える場合の指針となる臨床試験データは得られていない。血液凝固因子製剤以外の血友病治療薬から本剤に切り替える場合は、その製剤の半減期に基づき適切な休薬期間(少なくとも半減期の5倍の期間)の設定を考慮するなどし、本剤の投与を開始すること。休薬期間中は、必要に応じて血液凝固因子製剤による補充療法を行うこと。
8.4 本剤による治療期間中に出血が発現した場合は、以下の点に注意すること。
8.4.1 必要に応じて血液凝固第VIII因子又は第IX因子製剤の投与を行うこと。その場合は本剤との併用投与が可能であるが、各血液凝固因子製剤の電子添文や最新のガイドラインに従って投与し、投与量は、承認されている最低用量を目安として出血部位や程度に応じて判断すること。
8.4.2 血液凝固第VIII因子又は第IX因子製剤の自己注射が必要になった場合に備え、血液凝固因子製剤の投与間隔及び投与量について患者又は介護者に説明すること。
8.4.3 止血を目的とした本剤の追加投与及び用量変更は行わないこと。[
7.1参照]
8.4.4 血液凝固系検査等により患者の状態を注意深く観察し、異常が認められた場合は本剤の投与を中止し適切な処置を行うこと。
8.5 大手術時における本剤の有効性及び安全性は確立されていないため、大手術を行う場合は、本剤の投与を中止し、血液凝固因子製剤を用いた標準治療を行い、周術期における静脈血栓症発現のリスクを管理すること。本剤の投与を再開する場合は、術後の血栓塞栓症リスク因子の有無や、その他の止血製剤及び併用薬の使用等、患者の全身状態を考慮すること。なお、抜歯等の小手術では本剤の用量変更又は投与中止の必要はない。
8.6 本剤による治療中の患者において、過敏症反応の可能性がある発疹及びそう痒症の皮膚症状が報告されている。重度の過敏症反応が認められた場合には、本剤の投与を中止し、速やかに適切な処置を行うこと。[
11.1.2参照]
8.7 自己注射にあたっては、投与法について十分な教育訓練を実施したのち、患者又は介護者が確実に投与できることを確認した上で、医師の管理指導の下で実施すること。また、患者又は介護者に対し、自己注射後に何らかの異常が認められた場合は、速やかに医療機関へ連絡するよう指導すること。適用後、自己注射の継続が困難な状況となる可能性がある場合には、医師の管理の下で慎重に観察するなど、適切な対応を行うこと。
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 血栓塞栓性事象の既往又は危険因子を有する患者
9.1.2 組織因子が過剰に発現している状態にある患者
組織因子が過剰に発現している状態(進行したアテローム性疾患、癌、挫滅、敗血症、炎症病態等)では、本剤投与により血栓塞栓性事象又は播種性血管内凝固症候群(DIC)のリスクが高まる可能性がある。
9.4 生殖能を有する者
妊娠する可能性のある女性には、本剤投与中及び最終投与後1ヵ月間において避妊する必要性及び適切な避妊法について説明すること。
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。雌動物を用いた生殖発生毒性試験は実施していない。一般にヒトIgGは胎盤を通過することが知られている。本剤を妊婦に投与した場合、胎児及び出生児における血栓形成リスクが否定できない。[
15.2参照]
9.6 授乳婦
治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。本剤のヒト乳汁中への移行性は不明であるが、一般にヒトIgGはヒト乳汁中に移行することが知られている。
9.7 小児等
12歳未満の小児を対象とした臨床試験は実施していない。
9.8 高齢者
患者の状態を観察しながら慎重に投与すること。一般に、生理機能が低下していることが多い。
11.1 重大な副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.1.2 ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)
発疹、そう痒、呼吸困難、喘鳴、血圧低下等の症状が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。[
8.6参照]
11.2 その他の副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
| | 3%以上 | 3%未満 | 頻度不明 |
| 神経系 | | 頭痛 | |
| 消化器 | | 痔核 | |
| 皮膚 | そう痒症 | | 発疹a) |
| 筋・骨格 | | 関節痛 | |
| 全身障害及び投与部位の状態 | 注射部位反応(紅斑、そう痒感、腫脹、出血、浮腫、硬結、疼痛等)(11.2%) | 挫傷、疲労、末梢腫脹 | |
| 臨床検査 | | プロトロンビンフラグメント1・2増加、フィブリンDダイマー増加 | |
14.1 薬剤投与前の注意
14.1.1 冷蔵庫から取り出し、直射日光を避け、外箱に入れたまま15〜30分間かけて室温(30℃以下)に戻しておくこと。その他の方法(電子レンジや熱湯等)を用いて本剤を温めないこと。
14.1.2 一度室温(30℃以下)に戻した薬剤は、再び冷蔵庫に戻さないこと。
14.1.3 本剤を室温(30℃以下)に戻した後は7日以内に使用すること。7日以内に使用しなかった場合は適切に廃棄すること。
14.1.4 本剤を振とうしないこと。
14.1.5 本剤は無色〜淡黄色澄明の液である。内容物を目視により確認し、異物又は変色(濁りや暗黄色)等を認めた場合には使用しないこと。
14.2 薬剤投与時の注意
14.2.1 他の医薬品と本剤を混合しないこと。
14.2.2 投与部位は腹部又は大腿部とすること。
14.2.3 投与ごとに投与部位を変えることが望ましい。骨ばった部位や内出血、発赤、圧痛、硬結、瘢痕又は創傷等が認められる部位には投与しないこと。
14.2.4 300mgの投与を行う場合は、150mgの注射をそれぞれ異なる部位に投与すること。
14.2.5 本剤による治療期間中に他の製剤の皮下投与を行う場合は、異なる部位に投与することが望ましい。
14.2.6 静脈内への投与は行わないこと。
14.2.7 本剤は1回使い切りである。保存剤を含有していないため、未使用残液は適切に廃棄すること。
14.3 薬剤交付時の注意
14.3.2 投与の際は必ず取扱説明書を参照するよう指導すること。
16.1 血中濃度
16.1.1 単回投与
日本人又は外国人健康成人男性16例に本剤100又は300mgを単回皮下投与したときのマルスタシマブの血漿中濃度推移及び薬物動態パラメータを以下に示す
2)。
健康成人に単回皮下投与したときのマルスタシマブの血漿中濃度推移(平均値±標準偏差)
健康成人に100又は300mgを単回皮下投与したときのマルスタシマブの薬物動態パラメータ
| | 投与量(mg) | 例数 | Cmax(μg/mL) | AUClast(μg・h/mL) | AUCinf(μg・h/mL) | Tmax(h) | t1/2(h) |
| 外国人 | 100 | 6a) | 1.18(287) | 81.89(391) | 257.7(34) | 48(48.0-72.0) | 33.3±5.4 |
| 300 | 6b) | 16.49(63) | 3120(68) | 2799(83) | 72(48.0-144) | 65.8±18.0 |
| 日本人 | 300 | 4c) | 18.5(25) | 3551(28) | 4240,5670 | 108(72.0-144) | 74.7,122 |
16.1.2 反復投与
成人(18歳以上)及び青年(12〜18歳未満)血友病A又は血友病B患者に初回に本剤300mgを皮下投与し、以降は150mgを週1回皮下投与したときの平均Cmin,ss、Cmax,ss及びAUCssの母集団薬物動態解析
注1)に基づく推定値を以下に示す。定常状態時の累積係数の平均値は約4であった。本剤投与後の血漿中濃度は、初回投与から約60日後、すなわち8回目又は9回目の皮下投与までに定常状態に達すると考えられる
3)。
成人及び青年血友病患者に初回に300mgを皮下投与し、以降は150mg週1回で反復皮下投与したときの定常状態時のマルスタシマブの母集団薬物動態パラメータ
| 薬物動態パラメータ | 成人 | 青年 |
| Cmin,ss(μg/mL) | 8.32(166%) | 23.4(66.3%) |
| Cmax,ss(μg/mL) | 12.8(113%) | 30.5(59.3%) |
| AUCss(μg・h/mL) | 1910(122%) | 4720(60.6%) |
16.2 吸収
18歳以上65歳未満の血友病A又は血友病B患者20例に本剤150〜450mgを週1回反復皮下投与
注2)したときのTmaxの中央値は23〜59時間であった(外国人データ)
4)。母集団薬物動態解析
注1)の結果から、皮下投与後のマルスタシマブのバイオアベイラビリティは約71%と推定され、投与部位(腕、大腿部、腹部)による差異は見られなかった
5)。
16.3 分布
血友病患者における定常状態時のマルスタシマブの分布容積は、母集団薬物動態解析
注1)の結果から8.6Lであり
6)、血管外への分布は限定的であると考えられる。
注1)健康成人、成人及び青年の血友病A又は血友病B患者213例から得られた血漿中マルスタシマブ濃度及び総TFPI濃度を用いて母集団薬物動態解析を実施した。
注2)本剤の承認された用量は、初回に300mg、以降は1週間隔で1回150mgである。
17.1 有効性及び安全性に関する試験
17.1.1 国際共同第III相臨床試験(B7841005試験)
成人及び青年(男性、12歳以上75歳未満、体重35kg以上)のインヒビター非保有の重症血友病A又は中等症〜重症
注)血友病B患者を対象とし、6ヵ月間の観察期間後に、本剤を初回に300mg皮下投与し、以降は1週間隔で1回150mgを皮下投与した。用量増量基準(体重50kg以上等)を満たした患者は、本剤投与6ヵ月後以降に300mg週1回皮下投与に増量可とした。観察期間における治療は血液凝固第VIII因子又は第IX因子製剤による出血時補充療法又は定期補充療法とした。
主要評価項目は治療を要した出血の年換算出血率とし、6ヵ月間の観察期間と12ヵ月間の本剤投与期間の治療を要した出血の年換算出血率を比較した。観察期間に出血時補充療法を受けた33例(外国人データ)の成績は下表のとおりであり、年換算出血率の比(本剤投与期間/観察期間)の95%信頼区間の上限値は、事前に設定された評価基準である0.5を下回った。
注)血液凝固第IX因子の活性値が2%以下
| | 観察期間(33例) 6ヵ月間の血液凝固因子製剤による出血時補充療法 | 本剤投与期間(33例) 12ヵ月間の本剤定期投与 |
| 年換算出血率の最小二乗平均値a)[95%信頼区間](回/年) | 38.00[31.03,46.54] | 3.18[2.09,4.85] |
年換算出血率(最小二乗平均値a))の比(本剤投与期間/観察期間) [95%信頼区間]、p値b) | 0.084 [0.059,0.119]、<0.0001 |
観察期間に定期補充療法を受けた83例(日本人患者4例を含む)の成績は下表のとおりであった。
| | 観察期間(83例) 6ヵ月間の血液凝固因子製剤による定期補充療法 | 本剤投与期間(83例) 12ヵ月間の本剤定期投与 |
| 年換算出血率の最小二乗平均値a)[95%信頼区間](回/年) | 7.85[5.09,10.61] | 5.08[3.40,6.77] |
| 年換算出血率(最小二乗平均値a))の差(本剤投与期間−観察期間)[95%信頼区間](回/年) | −2.77[−5.37,−0.16] |
本剤が投与された全患者での副作用発現頻度は19.8%(23/116例)であり、主な副作用は、注射部位そう痒感、そう痒症が各3.4%(4/116例)、注射部位紅斑、プロトロンビンフラグメント1・2増加が各2.6%(3/116例)であった
7)。[
15.1参照]
17.1.2 国際共同第III相臨床試験(B7841007試験)
B7841005試験を完了した成人及び青年の男性血友病A又は血友病Bの患者を対象とし、本剤を定期投与したときの長期の安全性及び忍容性を主要目的として評価する実施中の非盲検延長試験である。
本剤を投与された全患者での投与期間の中央値は193日、副作用発現頻度は3.4%(3/87例)であり、注射部位内出血、注射部位硬結、注射部位腫脹が各1.1%(1/87例)であった
8)。[
15.1参照]
20.1 光を避けるため、本剤は外箱に入れて保存すること。[
14.3.1参照]
21.1 医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること。
21.2 製造販売後、一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は、全症例を対象に使用成績調査を実施すること。
本剤は新医薬品であるため、厚生労働省告示第107号(平成18年3月6日付)に基づき、2026年3月末日までは、投薬は1回14日分を限度とされています。