本剤を含むがん化学療法は、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本療法が適切と判断される症例についてのみ実施すること。適応患者の選択にあたっては、各併用薬剤の電子添文を参照して十分注意すること。
また、治療開始に先立ち、患者又はその家族に有効性及び危険性を十分説明し、同意を得てから投与すること。
2.1 心機能異常又はその既往歴のある患者[心筋障害があらわれるおそれがある。]
2.2 本剤に対し重篤な過敏症の既往歴のある患者
2.3 他のアントラサイクリン系薬剤等心毒性を有する薬剤による前治療が限界量(ドキソルビシン塩酸塩では総投与量が体表面積当り500mg/m
2、ダウノルビシン塩酸塩では総投与量が体重当り25mg/kg等)に達している患者[うっ血性心不全があらわれるおそれがある。][
9.1.4参照]
○下記疾患の自覚的並びに他覚的症状の緩解
○以下の悪性腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用療法
乳癌(手術可能例における術前、あるいは術後化学療法)
<急性白血病>
エピルビシン塩酸塩として15mg(力価)/m2(体表面積)を1日1回5〜7日間連日静脈内に投与し3週間休薬する。これを1クールとし、必要に応じて2〜3クール反復する。
<悪性リンパ腫>
エピルビシン塩酸塩として40〜60mg(力価)/m2(体表面積)を1日1回静脈内に投与し3〜4週休薬する。これを1クールとし、通常3〜4クール反復する。
<乳癌、卵巣癌、胃癌、尿路上皮癌(膀胱癌、腎盂・尿管腫瘍)>
エピルビシン塩酸塩として60mg(力価)/m2(体表面積)を1日1回静脈内に投与し3〜4週休薬する。これを1クールとし、通常3〜4クール反復する。
<肝癌>
エピルビシン塩酸塩として60mg(力価)/m2(体表面積)を肝動脈内に挿入されたカテーテルより、1日1回肝動脈内に投与し3〜4週休薬する。これを1クールとし、通常3〜4クール反復する。
<膀胱癌(表在性膀胱癌に限る)>
エピルビシン塩酸塩として60mg(力価)を1日1回3日間連日膀胱腔内に注入し4日間休薬する。これを1クールとし、通常2〜4クール反復する。注入に際しては、ネラトンカテーテルで導尿し十分に膀胱腔内を空にした後、同カテーテルよりエピルビシン塩酸塩溶液を注入し、1〜2時間膀胱腔内に把持する。
なお投与量は年齢、症状、副作用により、適宜増減する。
<乳癌(手術可能例における術前、あるいは術後化学療法)に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用療法>
・シクロホスファミド水和物との併用において、標準的なエピルビシン塩酸塩の投与量及び投与方法は、エピルビシン塩酸塩として100mg(力価)/m2(体表面積)を1日1回静脈内に投与後、20日間休薬する。これを1クールとし、通常4〜6クール反復する。
・シクロホスファミド水和物、フルオロウラシルとの併用において、標準的なエピルビシン塩酸塩の投与量及び投与方法は、エピルビシン塩酸塩として100mg(力価)/m2(体表面積)を1日1回静脈内に投与後、20日間休薬する。これを1クールとし、通常4〜6クール反復する。
なお、投与量は年齢、症状により適宜減量する。
<用法共通>
8.1 骨髄抑制、心筋障害等の重篤な副作用が起こることがあるので、適宜臨床検査(血液検査、肝機能・腎機能検査、心機能検査等)を行うなど、患者の状態を十分に観察すること。また、使用が長期間にわたると副作用が強くあらわれ、遷延性に推移することがあるので、投与は慎重に行うこと。[
11.1.1、
11.1.2参照]
8.2 アントラサイクリン系薬剤未治療例で、本剤の総投与量が900mg/m
2(体表面積)を超えると、うっ血性心不全を起こすことが多くなるので注意すること。本剤の総投与量が900mg/m
2以下であっても、うっ血性心不全を起こすことがある。特に、他のアントラサイクリン系薬剤等心毒性を有する薬剤による前治療歴のある患者及び心臓部あるいは縦隔に放射線療法を受けた患者では心機能検査を行い、慎重に投与すること。[
9.1.4、
10.2、
11.1.1参照]
8.3 心筋障害等の心毒性については、本剤の投与終了後も発現することがあるので、長期にわたり観察すること。[
11.1.1参照]
8.4 感染症・出血傾向の発現又は増悪に十分注意すること。
<肝動脈内投与>
8.5 肝内胆汁性嚢胞、胆管炎、胆管壊死、肝壊死等の肝・胆道障害があらわれることがあるので、造影剤等により薬剤の分布領域をよく確認すること。[
11.1.6参照]
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 骨髄抑制のある患者
9.1.2 感染症を合併している患者
9.1.3 水痘患者
9.1.4 他のアントラサイクリン系薬剤等心毒性を有する薬剤による前治療歴のある患者(他のアントラサイクリン系薬剤等心毒性を有する薬剤による前治療が限界量に達している患者を除く)
9.2 腎機能障害患者
9.3 肝機能障害患者
9.4 生殖能を有する者
9.4.1 妊娠する可能性のある女性には、本剤投与中及び投与終了後一定期間は適切な避妊を行うよう指導すること。[
9.5参照]
9.4.2 パートナーが妊娠する可能性のある男性には、本剤投与中及び投与終了後一定期間は適切な避妊を行うよう指導すること。[
15.2.2参照]
9.4.3 小児及び生殖可能な年齢の患者に投与する必要がある場合には、性腺に対する影響を考慮すること。
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないことが望ましい。外国で妊娠中に本剤とシクロホスファミド水和物を投与された患者の胎児において、心毒性が認められ死亡に至った例も報告されている
1)。動物実験(ラット)で胎児毒性が報告されており、またアントラサイクリン系の他の抗悪性腫瘍剤では、動物実験で催奇形性が報告されている。[
9.4.1、
15.2.2参照]
9.6 授乳婦
授乳しないことが望ましい。動物実験(ラット)で乳汁中への移行が報告されている。
9.7 小児等
9.7.1 小児等を対象とした臨床試験は実施していない。
9.7.2 副作用の発現に特に注意し、慎重に投与すること。小児での副作用として主なものは、食欲不振、白血球減少、悪心等が報告されている。
9.8 高齢者
用量に留意して患者の状態を観察しながら慎重に投与すること。心毒性、骨髄抑制があらわれやすく、また本剤は主として肝臓で代謝されるが、肝機能が低下していることが多いため高い血中濃度が持続するおそれがある。
11.1 重大な副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
<用法共通>
11.1.1 心筋障害(0.1%)
11.1.2 骨髄抑制(頻度不明)
汎血球減少、白血球減少、好中球減少、血小板減少、貧血、出血傾向があらわれることがある。なお、高度な骨髄抑制により致命的な感染症(敗血症)や消化管出血があらわれることがある。[
8.1参照]
11.1.3 ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)
血圧低下、呼吸困難、発赤、意識低下等の異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
11.1.4 間質性肺炎(頻度不明)
発熱、咳嗽、呼吸困難、胸部X線異常等を伴う間質性肺炎があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと。
<膀胱腔内注入>
<肝動脈内投与>
11.1.6 肝・胆道障害(頻度不明)
肝内胆汁性嚢胞、胆管炎、胆管壊死、肝壊死等の肝・胆道障害があらわれることがある。[
8.5参照]
11.1.7 胃潰瘍(0.1%未満)
、十二指腸潰瘍(0.1%未満)[
14.2.5参照]
11.2 その他の副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
| 5%以上 | 0.1〜5%未満 | 0.1%未満 | 頻度不明 |
心臓 | | 心電図異常、不整脈、頻脈 | 胸痛 | |
過敏症 | | 発疹 | 紅斑、発赤 | 蕁麻疹 |
肝臓 | 肝機能異常(AST・ALT上昇等) | | | |
腎臓 | | 腎機能異常(BUN上昇等) | | |
消化器 | 悪心・嘔吐、食欲不振 | 口内炎、下痢、腹痛 | 食道炎、胃炎 | 消化管出血 |
皮膚 | 高度の脱毛 | | 色素沈着、そう痒症 | 肝動脈内投与時の発赤、紅斑、びらん、潰瘍等の皮膚障害、皮膚壊死 |
精神神経系 | 倦怠感 | しびれ、疼痛、頭痛 | 耳痛・耳鳴、不眠、意識障害、知覚異常(口腔内異和感) | |
泌尿器 | 頻尿・排尿痛・膀胱炎・血尿・蛋白尿・尿沈渣(赤血球数・白血球数増加)等の膀胱刺激症状注1) | 頻尿、血尿 | | |
呼吸器 | | | | 呼吸困難、気胸・血胸注2) |
注射部位 | | | | 静脈内投与による血管痛、静脈炎、血栓 |
その他 | 発熱 | | 悪寒、顔面浮腫、血圧低下 | ほてり |
14.1 薬剤調製時の注意
14.1.1 冷所保存によりエピルビシン塩酸塩が自己会合を起こし、粘性が増すことがあるので、使用前20〜30分間常温に放置するか、又はゆるやかに振り混ぜてから使用すること。
14.1.2 配合変化を起こす可能性があるので他の薬剤との混注を避けること。
14.2 薬剤投与時の注意
<用法共通>
14.2.1 本剤は用法・用量にしたがって使用し、皮下、筋肉内投与はしないこと。
14.2.2 腹腔内に投与すると、腸管の癒着を起こすことがあるので、腹腔内投与はしないこと。
<静脈内投与>
14.2.3 血管痛、静脈炎、血栓を起こすことがあるので、注射部位、注射方法等に十分注意し、注射速度をできるだけ遅くすること。また、同一部位への反復投与により、血管の硬化を起こすことがある。
14.2.4 薬液が血管外に漏れると、注射部位に疼痛、灼熱感、炎症、腫脹、壊死を起こすことがあるので、点滴の側管を利用する等、薬液が血管外に漏れないように投与すること。
<肝動脈内投与>
14.2.5 本剤が標的とする部位以外へ流入することにより、胃潰瘍、十二指腸潰瘍があらわれることがあるので、造影剤等によりカテーテルの先端位置、薬剤の分布領域をよく確認し、カテーテルの逸脱・移動、注入速度等に随時注意すること。なお、このような症状があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。[
11.1.7参照]
14.2.6 疼痛、発赤、紅斑、びらん、潰瘍等の皮膚障害があらわれ、皮膚壊死に至ることがあるので、このような症状があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
15.1 臨床使用に基づく情報
15.2 非臨床試験に基づく情報
15.2.1 ラットの新生児に皮下投与した実験で、発癌性がみられたとの報告がある。
15.2.2 細菌等に対する突然変異誘起性が認められている。[
9.4.2、
9.5参照]
17.1 有効性及び安全性に関する試験
17.1.1 国内一般臨床試験及び乳癌を対象とした比較臨床試験
主な腫瘍別奏効率(CR+PR)は、急性白血病23.5%(8/34)、悪性リンパ腫65.9%(27/41)、乳癌38.6%(27/70)、卵巣癌22.6%(7/31)、胃癌14.9%(7/47)、肝癌(動注)15.1%(8/53)、尿路上皮癌18.8%(6/32)、表在性膀胱癌(膀注)58.8%(57/97)であった
6)7)8)9)10)11)12)13)14)15)16)。
<エピルビシン塩酸塩注射液10mg/5mL「NK」>
<エピルビシン塩酸塩注射液50mg/25mL「NK」>