本剤の投与にあたっては、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤の投与が適切と判断される症例についてのみ実施すること。また、治療開始に先立ち、患者又はその家族に有効性及び危険性を十分説明し、同意を得てから投与すること。
5.1 「17.臨床成績」の項の内容を熟知し、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、適応患者の選択を行うこと。
5.2 本剤以外の治療の実施についても慎重に検討した上で、適応患者の選択を行うこと。
5.3 本剤の皮膚以外の病変(内臓等)に対する有効性は確立していない。[
17.1参照]
通常、成人にはボリノスタットとして1日1回400mgを食後経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。
7.1 全身投与による他の抗悪性腫瘍剤との併用について、有効性及び安全性は確立していない。
7.2 本剤の投与については、以下の基準を目安に、休薬、減量又は投与中止の判断を行うこと。
海外第II相試験(001試験)の休薬、減量又は投与中止基準
<休薬> NCI CTCAE ver. 3.0 Grade3又は4の毒性が認められた場合、Grade1以下に回復するまで、最大2週間休薬する。休薬に至った毒性がGrade1以下に回復した後減量して再開する。ただし、Grade3の貧血及び血小板減少症は、休薬は必須ではない。 |
<用量変更> 投与量の減量は、下記に示した方法に従って実施する。 1回目の用量変更:1日1回300mg 2回目の用量変更:1日1回300mg5日間投与後2日間休薬 |
<投与中止> 休薬に至った毒性が2週間以上Grade1以下まで回復しない場合、又は2回目の用量変更を実施したにもかかわらず、再度、休薬を必要とする毒性が認められた場合、投与を中止する。 |
7.3 軽度の肝障害患者に対する最大耐用量は300mg、中等度の肝障害患者に対する最大耐用量は200mgであることが確認されている。[
9.3.2、
16.6.1、
17.3.1参照]
8.1 脱水症状があらわれることがあるので、必要に応じて、補液、電解質補充等を行うこと。また、投与にあたっては、患者に、脱水の兆候や脱水を避けるための注意点を指導すること。過度の嘔吐、下痢等が認められた場合には、医師の診察を受けるよう患者を指導すること。[
11.1.4参照]
8.2 高血糖があらわれることがあるので、投与開始前及び投与開始後は定期的に血糖値の測定を行うこと。また、本剤の投与を開始する前に血糖値を適切にコントロールしておくこと。[
9.1.2、
11.1.5参照]
8.3 血小板減少、貧血、腎機能障害等があらわれることがあるので、本剤投与中は定期的に、血液検査(血球数算定、電解質/血清クレアチニンを含む血液生化学検査)を行うこと。[
11.1.2、
11.1.3、
11.1.6参照]
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 静脈血栓塞栓症を有する又は既往歴のある患者
肺塞栓症、深部静脈血栓症が発現、悪化するおそれがある。[
11.1.1参照]
9.1.2 糖尿病又はその疑いのある患者
9.3 肝機能障害患者
本剤の血清中濃度が上昇するおそれがある。
9.3.1 重度の肝障害患者
9.4 生殖能を有する者
妊娠する可能性のある女性には本剤投与中は妊娠しないよう指導すること。[
9.5参照]
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。やむを得ず投与する場合には、本剤投与によるリスクについて患者に十分説明すること。動物実験では、ラット受胎能試験において本剤投与に関連した黄体数の増加が報告され、ラットの受胎能試験及び胚・胎児発生に関する試験において胚致死作用が報告されている。また、ウサギ及びラットの胚・胎児発生に関する試験及びトキシコキネティクス試験において、本剤の胎盤通過、生存胎児の平均体重の減少、骨化遅延及び骨格変異が報告されている
1)。[
9.4参照]
9.6 授乳婦
治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。本剤がヒト乳汁中へ移行するかは不明である。
9.7 小児等
9.8 高齢者
患者の状態を観察しながら慎重に投与すること。一般に生理機能が低下していることが多い。
11.1 重大な副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.1.1 肺塞栓症(4.7%)
、深部静脈血栓症(1.2%)[
9.1.1参照]
11.1.2 血小板減少症(25.6%)[
8.3参照]
皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)患者を対象にした海外臨床試験(001試験及び005試験)において1日1回400mg投与で認められた副作用の頻度を基に記載した。
*:CTCL患者を対象にした国内臨床試験(089試験、1日1回400mg投与)、CTCL以外の患者を対象にした海外臨床試験及びCTCL患者を対象にした海外臨床試験(001試験及び005試験)において1日1回400mg投与以外で認められた副作用
11.2 その他の副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
| 10%以上 | 10%未満 | 頻度不明* |
感染症 | | レンサ球菌性菌血症 | 憩室炎 |
血液 | | 好中球減少症、白血球減少症、リンパ球数減少 | 溶血 |
精神・神経系 | | 浮動性めまい、頭痛、錯感覚、嗜眠、失神 | 虚血性脳卒中 |
循環器 | | 高血圧、動悸 | 低血圧、血管炎 |
呼吸器 | | 呼吸困難、咳嗽 | 喀血 |
消化器 | 下痢、悪心、口内乾燥、嘔吐、便秘 | 腹痛、上腹部痛、胃食道逆流性疾患、胃腸出血 | 嚥下障害 |
肝胆道系 | | ALT増加、AST増加 | 肝虚血、高ビリルビン血症 |
皮膚 | 脱毛症 | 皮膚剥脱、多汗症 | |
泌尿器 | 血中クレアチニン増加 | 蛋白尿、血尿 | 尿閉 |
電解質 | | 高マグネシウム血症、低カリウム血症 | 低ナトリウム血症 |
その他 | 筋痙縮、味覚異常、疲労、悪寒、食欲不振、体重減少 | 味覚減退、発熱、胸痛、末梢性浮腫、冷感、血管神経性浮腫 | 腫瘍出血、霧視、難聴、無力症、高トリグリセリド血症、倦怠感 |
皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)患者を対象にした海外臨床試験(001試験及び005試験)において1日1回400mg投与で認められた副作用の頻度を基に記載した。
*:CTCL患者を対象にした国内臨床試験(089試験、1日1回400mg投与)、CTCL以外の患者を対象にした海外臨床試験及びCTCL患者を対象にした海外臨床試験(001試験及び005試験)において1日1回400mg投与以外で認められた副作用
14.1 薬剤交付時の注意
PTP包装の薬剤はPTPシートから取り出して服用するよう指導すること。PTPシートの誤飲により、硬い鋭角部が食道粘膜へ刺入し、更には穿孔を起こして縦隔洞炎等の重篤な合併症を併発することがある。
14.2 薬剤投与時の注意
カプセルを開けたり、つぶしたりしないこと。カプセル内の粉末を皮膚又は粘膜に直接接触させないこと。直接接触した場合には、完全に洗い流すこと。
16.1 血中濃度
16.1.1 単回投与
固形がん患者におけるボリノスタット100〜500mg食後単回経口投与
注1)後の血清中濃度時間曲線下面積(AUC)及び最高血清中濃度(Cmax)はおおむね用量に比例して増加した(図及び表1)
3)。
図 固形がん患者におけるボリノスタット食後単回経口投与後の平均血清中濃度推移
表1 固形がん患者におけるボリノスタット食後単回経口投与後の薬物動態パラメータ
用量(mg) | 例数 | AUC0-∞(μM・hr) | Cmax(μM) | Tmax(hr) | t1/2(hr) |
100 | 3 | 0.98* | 0.21±0.14 | 4.00(2.98,10.00) | 1.62* |
200 | 6 | 2.22±0.89 | 0.59±0.22 | 3.00(2.00,4.00) | 1.36±0.28 |
400 | 3 | 4.30±0.37 | 0.93±0.12 | 3.00(1.50,6.08) | 2.01±1.47 |
500 | 6 | 5.93±1.78 | 1.35±0.39 | 3.49(1.00,4.03) | 1.60±0.66 |
16.1.2 反復投与
CTCL患者におけるボリノスタット400mg28日間1日1回食後反復経口投与後のAUC
0-∞、Cmax、Tmax及びt
1/2(平均±標準偏差、Tmaxは中央値[範囲])はそれぞれ5.56±1.46μM・hr、1.17±0.37μM、3.7[2.9-4.3]hr及び2.30±1.10hrであり、初回投与時と比べ、これらパラメータに顕著な変化はみられなかった。AUCに基づく累積係数は1.18であった
4)。
16.1.3 食事の影響
固形がん患者におけるボリノスタット400mg食後(高脂肪食)単回経口投与後のAUC
0-∞及びCmaxは空腹時単回経口投与後のそれぞれ1.38倍及び0.91倍であった。摂食によりTmaxは1.5時間から4時間に遅延したが、t
1/2は変化しなかった
5)(外国人データ)。
16.3 分布
1.9〜190μMの濃度範囲において、ボリノスタットのヒト血漿蛋白結合率は68〜76%であった
6)(
In vitro)。
16.4 代謝
16.4.1 固形がん患者におけるボリノスタット400mg反復経口投与後(定常状態)の主要代謝物はO-グルクロン酸抱合体及びヒドロキサム酸基の加水分解後のβ-酸化で生成する4-アニリノ-4-オキソブタン酸であり
注2)、血清中曝露量はボリノスタットと比べ、それぞれ約2及び8倍高かった
3)7)。
16.4.2 ヒト肝ミクロソームを用いた検討において、チトクロームP450(CYP)の関与を示唆するボリノスタットの代謝物は認められなかった。また、ボリノスタットはヒトcDNA発現系のUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)1A1、1A3、1A7、1A8、1A9、2B7及び2B17によりグルクロン酸抱合を受けた。ヒト肝細胞では、ボリノスタットは臨床血清中濃度より高い10μMにおいてCYP2C9とCYP3A4の代謝活性を抑制した
8)(
In vitro)。
16.5 排泄
固形がん患者におけるボリノスタット400mg反復経口投与後(定常状態)24時間の未変化体及び代謝物であるO-グルクロン酸抱合体及び4-アニリノ-4-オキソブタン酸
注2)の尿中排泄率はそれぞれ投与量の1%未満、23%及び57%であった
4)。
16.6 特定の背景を有する患者
16.6.1 肝機能障害患者
肝機能
注3)の異なる固形がん患者に本剤400mgを経口単回投与後の血清中薬物動態パラメータは、表2のとおりであった。なお、これらの患者間で統計的に有意な差はなかった
9)(外国人データ)。[
2.2、
7.3、
9.3.1、
9.3.2、
17.3.1参照]
表2 肝機能の異なる固形がん患者におけるボリノスタット400mg単回経口投与後の薬物動態パラメータ
肝機能 | n | AUC0-∞(μM・hr) | Cmax(μM) | Tmax(hr) | t1/2(hr) | CLapp(L/min) |
正常 | 15 | 5.1±1.9 | 1.4±0.5 | 1.4±0.8 | 2.5±1.2 | 6.4±5.1 |
軽度 | 15 | 7.7±3.4 | 2.2±1.1 | 2.3±2.0 | 2.0±1.4 | 4.0±1.8 |
中等度 | 15 | 7.5±2.4 | 1.7±0.6 | 2.7±1.9 | 3.5±2.8 | 3.8±1.6 |
重度 | 9 | 8.3±5.1 | 1.8±0.7 | 2.6±2.2 | 2.9±1.5 | 4.2±2.3 |
注1)本剤の承認用法・用量は、通常、成人にはボリノスタットとして1日1回400mgを食後経口投与である。
注2)両代謝物は薬理活性を有さない。
注3)肝機能はNCI-ODWG基準により分類
17.1 有効性及び安全性に関する試験
17.1.1 海外後期第II相試験(001試験)
CTCL患者を対象とした非盲検、非対照試験
10)において、本剤1日1回400mgが投与されたCTCL患者の有効性は表1のとおりであった。
表1 有効性成績(001試験)
| 74例 |
治験実施計画書前治療規定数注1) | 2種類以上 |
対象病期(Stage) | StageIIB以上注2) |
奏効率注3) |
全体 | 29.5%(18/61) |
菌状息肉症 | 25.8%(8/31) |
セザリー症候群 | 33.3%(10/30) |
17.1.2 国内第I相試験(089試験)
CTCL患者を対象とした非盲検、非対照試験
11)において、本剤1日1回400mgが投与されたCTCL患者の有効性は表2のとおりであった。
表2 有効性成績(089試験)
| 10例 |
治験実施計画書前治療規定数注4) | 1種類以上注5) |
対象病期(Stage) | StageIIB以上 |
奏効率注6) |
全体 | 10%(1/10)注7) |
菌状息肉症 | 10%(1/10)注7) |
セザリー症候群 | NA(0/0) |
CTCL患者10例中10例に副作用(臨床検査値の異常変動を含む)が認められた。主な副作用は、血小板減少症が8例、悪心が6例、倦怠感が5例、嘔吐、高クレアチニン血症、食欲不振及び味覚異常が各4例、高ビリルビン血症、高血糖、高マグネシウム血症、高トリグリセリド血症、白血球減少症、リンパ球減少症及び体重減少が各3例、下痢、頭痛、高血圧、発熱、貧血、疲労及び腎機能障害が各2例であった。
17.1.3 海外前期第II相試験(005試験)
CTCL又は末梢T細胞性リンパ腫患者を対象とした非盲検、非対照試験において、本剤1日1回400mgが投与された患者の奏効率(評価方法:Physician's Global Assessment;PGA)は30.8%(4/13例)であった。なお、005試験の対象病期はStageIA以上であったが、実際に組み入れられた患者はStageIB以上であった。また各患者の全身投与による前治療は1種類以上であった
12)。
17.3 その他
17.3.1 肝機能障害患者[海外第I相試験(075試験)]
肝機能
注8)の異なる固形がん患者57例(肝機能正常者16例、軽度肝障害患者15例、中等度肝障害患者15例、重度肝障害患者11例)に本剤を1日1回反復経口投与したときの安全性について評価した。400mgコホートの軽度肝障害患者2/7例で用量制限毒性(Grade3の脱水及び下痢1例、Grade3の脱水及びGrade4の血小板減少症1例)が認められ、軽度の肝障害患者での最大耐用量は300mgであった。300mgコホートの中等度肝障害患者2/4例で用量制限毒性(Grade4の血小板減少症2例)が認められ、中等度の肝障害患者での最大耐用量は200mgであった。200mgコホートの重度肝障害患者2/3例で用量制限毒性(Grade4の血小板減少症2例)が認められ、重度の肝障害患者での最大耐用量は100mgであった
9)。[
2.2、
7.3、
9.3.1、
9.3.2、
16.6.1参照]
注8)肝機能はNCI-ODWG基準により分類