背景

KEGG では、病気とは生体システムを司る分子ネットワークがゆらいだ状態であるとみなしています。病気の遺伝要因と環境要因、それに医薬品は分子ネットワークへのゆらぎ物質です。単一遺伝子疾患、多因子性疾患、感染症疾患など様々な病気は、ゆらぎ物質とその相互作用を蓄積することで、すべて統一的に扱うことができます。
molecular network
ゆらいだ分子ネットワークに関する知識は疾患パスウェイマップとして表現され、KEGG PATHWAY データベースの一部として提供されています (例えば、慢性骨髄性白血病のパスウェイマップ hsa05220)。マップでは病因遺伝子(ゲノムのゆらぎ)は赤字で示されていますが、その詳細(例えば変異や融合遺伝子など)は記述されていません。これらの詳細は新たに開発を始めた KEGG NETWORK データベースに蓄積されています。

KEGG DISEASE データベース

KEGG DISEASE は、分子ネットワークの詳細が不明な大多数の疾患も含め、ゆらぎ物質のみを蓄積したデータベースです。各疾患エントリは H 番号で識別され、病因遺伝子、環境因子、病原体、治療薬を含むリストで表現されています (例えば、慢性骨髄性白血病の疾患エントリ H00004)。疾患は以下の BRITE 階層ファイルで分類されています。 また日本の法令で定められた疾患との対応づけも行われています。 疾患エントリは遺伝子や分子と疾患との関連を単純なメンバーシップリストとして表現しているだけですが、背景にある分子ネットワークの特徴解析に有用です。単一遺伝子疾患では、ゆらいだパスウェイマップは描かれていませんが、疾患エントリから正常なパスウェイマップに対してマッピングができるようになっています (例えば、先天性グリコシル化異常症I型の疾患エントリ H00118 と N-グリカンの生合成マップ hsa00510)。

疾患パスウェイマップ

KEGG PATHWAY データベースの「ヒト疾患」カテゴリには、疾患パスウェイマップが蓄積されています。 疾患パスウェイマップは、がん、免疫系疾患、神経変性疾患、循環器疾患、代謝疾患などの多因子性疾患が中心で、病因遺伝子は赤字で示されています。また感染症疾患では、病原体の分子ネットワークとヒトの分子ネットワークの相関が表現されています。

ネットワークバリエーションマップ

KEGG NETWORK データベースのネットワークバリエーションマップは、遺伝子バリアント、ウイルス、その他の因子によるゆらいだ分子ネットワークが、特定のクラスの疾患とどのように関連しているかを示しています。

Disease マッピング

KEGG Mapper Search ツールには、hsa モードで KEGG DISEASE 疾患エントリにある遺伝子リスト、及び関連するパスウェイに対するマッピングが含まれています。ユーザのデータセットをヒト遺伝子ID か KO で指定し、データセットと疾患の関連があるかを調べることができます。
病因遺伝子と医薬品ターゲットのマッピング

KEGG DISEASE に蓄積されている病因遺伝子、及び KEGG DRUG に登録されている医薬品ターゲットは、KEGG PATHWAY マップや BRITE 機能階層でもしばしば表現されています。病因遺伝子と医薬品ターゲットをマップした (disease/drug mapped) パスウェイマップは hsadd という 5文字の特殊な生物種コードで、BRITE 階層ファイルは hsa 番号の後に _dd をつけた形で識別されます。

例えば hsadd04620 は Toll 様レセプターシグナル伝達経路の disease/drug mapped 版で、色づけには以下の意味があります。
  • 遺伝子が何らかの疾患と関連づけられている場合はピンクで表示
  • 遺伝子(産物)が何らかの医薬品のターゲットである場合はライトブルーで表示
  • 遺伝子が疾患にも医薬品にも対応する場合は、ピンクとライトブルーを半分ずつ表示
Disease/drug mapped 版作成は毎晩の KEGG データベース更新で行われています。各マップや BRITE 機能階層は生物種選択メニューから選んで表示することができます。マップについては以下の一覧表も準備されています。

疾患分類


Last updated: April 24, 2023